終末の日曜日
ドラケンと会うのは、大体いつも、第三日曜日の夜。
「んー……」
D&Dの定休日前日で、オレが計画的有給消化により生み出した三連休の中日。指折り数えて待つような健気さは持ち合わせていないけれど、おおよそ三日前くらいからそわそわとしてしまう。
「んん、」
きゅ、と、ベッドの上で体育座りをした。それとなく見やった時計は夜の七時五十分を指している。閉店は七時だから、もうすぐ来るな。早く、来ないかな。来て欲しい、な。
ゆっくりと体を傾かせて、ベッドに沈み込んだ。微かに揺れるが、軋む音はしない。我ながら、良いベッドを買ったものだ。
待ち遠しさに心を震わせつつ、そっと瞼を閉じた。
隣人の生活音は、聞こえそうで、聞こえない。広い部屋ではないし、築年数もなかなか。それでもこの家にしたのはで水回りが綺麗だったから。一度リフォームしたのもあって、そこだけ真新しかったのだ。だから、この防音ぶりは、予想外。棚ぼたとも言える。共有の廊下や、外の音は聞こえてくるけれど、隣の音はまるでしないのだ。良い家だよな、ココ。
「ん……?」
そのうちに、心当たりのあるエンジン音がした。たぶん、あいつだ。そのままベッドで蹲っていれば、階段を上る足音も聞こえてくる。この、感じ。やっぱりアイツだ。ドラケンだ。
くふ、と一つ笑ってから、体を起こした。ひょいと床に足を下ろして、真っ直ぐに玄関に向かう。
雰囲気のある足音は、扉一枚隔てた向こうで止まった。
「よ」
「ぅおッ」
勢いよく玄関を開けると、びく、とソイツは肩を震わした。指は、真っ直ぐにインターホンに伸びている。鳴らしてから、出迎えられると思っていたのだろう。残念でした、驚いたろ。普段より少しだけ見開かれた目に、なんだか気分が良くなってくる。
「いらっしゃい」
「……オマエさあ、いつも言ってっけど」
「確かめてからドア開けろだろ? 大丈夫大丈夫、ドラケンの足音、わかりやすいし」
「確かめてねえじゃねえか……」
「足音でわかるんだって」
入って、と笑って見せると、言いたいことをあれこれ飲み込んだ顔をして、ソイツは敷居を跨いだ。もそもそとブーツを脱ぎ始めるのを見届けて、一足先に部屋に戻る。鍵について何も言わなかったけれど、オレにすら防犯意識を持てと言ってくるあの男の事だ、ちゃんと閉めてくれるだろう。
改めて、ぐるりと自室を見渡した。手狭ではあるが、片付いている。ゴミ箱は空、諸々必要になるものはベッドサイドに出している。
ヨシ。
「相変わらず、でけーベッドだよなあ」
「寝心地は大事じゃん」
「言えてる」
ひょいと部屋に顔を出したドラケンは、はあ、と感嘆のため息を吐く。自分にとって、家は寛ぐというより寝に帰るところ。だから、大の字で寝られる大きさのものにした。おかげで、部屋の大部分はベッドで占められている。
するりとオレを追い越していったドラケンは、早速そのベッドに腰を下ろした。かと思うと、どふんと背中を沈める。両腕を緩く広げて、ぱたぱたと布団を叩いた。が、すぐに静かになる。
……あれ、寝た?
「ドラケン?」
「オレも買い替えっかなぁ……」
や、寝てなかった。
来るたびに良いな良いなとは言っていたが、ついに買い替えようとその口から零す日が来ようとは。ミニマリストと言えば良いのか、ドラケンの私物はとにかく少ない。そのせいなのか、オレより収入は少ないはずなのに貯金はすごいのだ。良い寝具を揃える余裕は、間違いなく、ある。
口元を緩めながら、寝そべる男の隣に腰掛けた。
「ダブル買いなよダブル」
「部屋の半分ベッドになんだろ」
「イイじゃん。そしたらオレ通うワ、オマエん家」
「週七でセックスすんの? 枯れそー」
「いやいや、さすがに毎日はシないって」
「そう? オマエ、オレといるとすぐシたがるじゃん」
「それは、さあ」
月に一回しか、会わないからだよ。
そう言おうかと思ったが、会う頻度が上がれば、その分、求める気もしなくはない。毎日はないにしたって、なあ。ここしばらくの自慰の頻度を思うと、同居し始めたら、しょっちゅう肌を重ねることになるだろう。まあ、ドラケンが乗り気になってくれればの話だが。
もごもごと言葉を探していると、くんっと袖を引かれた。思考を止めて視線を向ければ、うっすらと欲の乗った目を向けられる。
「ドラケンだって、シたがる、じゃんか」
「好きなんだからヤりてーだろ、そりゃ」
「……そういうのいいから」
「良くねー、さっさと折れろ。付き合って」
「やだって言ってんだろ」
「セックスしてんのに?」
「セフレの何が不満なんだよ……」
「不満しかねーし」
語気が強まったかと思うと、今度は手首を掴まれた。そのまま、勢いよく引っ張られる。ワッと声を上げると同時に、男の上に倒れ込んでしまった。咄嗟にもう一方の手をつくと、ちょうどソイツを押し倒したみたいな恰好になる。
顔が、近い。別にこれくらいの距離、おっぱじめちまえばしょっちゅうだけど。素面で向き合うと、どうも顔に血が集まってくる。
ふと、ドラケンの指が、オレの髪を潜った。熱を帯びた黒い目に、自分の顔が映り込む。欲情したコイツに負けず劣らず、濡れた顔してんなあ。むにゃりと唇を波打たせてから、ちゅっとすぐそばのソレに口付けた。
「ん」
「んぅ」
まずは、触れるだけ。存外、弾力ある唇は重ねていて気持ちが良い。つい、やわやわとした感触に浸ってしまう。
リップ音を立てながら離れると、じっとりとした目を向けられた。話途中にしやがって。くっきりと、その顔に書いてある。
「三ツ谷ぁ」
「別に、やることやってンだから、このままでも良いじゃんか」
「良くねえの。逆になんでそんなヤなの」
「……それは、その、」
捨てられたら、一生引きずるから。なんて、言えるか。
オレのこの、長年に渡って拗らせた愛執を舐めないでほしい。煽らないで、ほしい。なにより、これ以上を求めたら、罰が当たってしまいそう。
オレはセフレのままで良い。なんと言われようと、このままで良い。たまに会って、セックスして、終わり。それくらいの距離感で良いんだ。
なのに、この男と来たら。不意にキスをしてしまってから、何かと口説いてくるようになった。好きだ、可愛い、付き合って。最中には、そんなことばかり囁いてくる。絆されて堪るかと、いつも足掻くのに必死になってしまう。
まったく、気持ち良いことだけの、楽な関係のままでいさせろよ。
言い返す代わりに、もう一度唇を乗せると、ぐるんと体を反転させられた。
「っは、ぁ、んン」
息継ぎを挟んで、今度はドラケンに貪られる。舌こそ絡めないものの、ちゅ、ぷちゅ、と唾液で濡れる音が聞こえ始めた。
頭が蕩けていく。熱に浮かされだす。組み敷かれた体は、自然と内腿を擦り合わせていた。キスだけで、この期待のしよう。我が身のあまりのチョロさに笑えてくる。
「ぅ、ちュ、ンんっ……」
「っは、ん」
どうも、コイツを相手にすると防戦一方になってしまう。どうしたら一矢報いれるだろうか。やらしい下着でもつけてみるか? 紐同然のTバックとか、フリフリスケスケの総レースとか。布面積はとにかく狭いのに、デザイン料がしこたまかかっている下着に、心当たりは山ほどある。
キスの心地よさに酔いながら、ぽやっと頭を巡らせた。浮かべたのは、エロいパンツを、履いた、自分。……やめよ。ない。ないな。いざ着て見せたところで、こいつの育ちを思うと「で?」と言われて終わりそう。なんなら「結局脱ぐんだから、何穿こうと変わらねえだろ」と言われる気もする。
「ンぅっ!?」
「ンー……」
「あっ、はぁ、ふ……、ムぅ」
ヂュッと舌先を吸われて、不埒な思考は霧散した。いつの間にか口内に侵入していた舌は、ぐずぐずとオレに絡んでくる。
もっと、もっと、欲しい。掻き回してほしい。自然と腕はドラケンの首に回る。縋りつくみたいに、指先は形の良い頭を撫でた。
「んっ、ん、んン」
「ふ、は」
「ぁ、っはあッ……?」
しかし、欲は満たされなかった。くん、と顔を引かれてしまう。つぅっと唾液の糸が伸び、すぐにぷつんと途切れてオレの唇に乗った。
どうして?
もっとして欲しかったのに。これじゃ、物足りない。激しく、して欲しい。じっとりと濡れた瞳で見上げると、ふ、笑みを落とされた。
「今日さ」
「ん」
「ゆっくりして良い?」
「ゆっくり……?」
「そ。これまで結構激しくしてたけど、オマエ全然折れねえじゃん。だから、今度は焦らそうかと思って」
「ソレ、オレに言っちゃ意味なくない?」
「そうか? 口説くために焦らすって言っちまったほうが、オマエも不安にならなくて良いだろ」
「あー……」
それは、一理ある。なんの予告もなく、丁寧に抱かれたらこれが最後なのかと思ってトチ狂うかもしれない。それよりは、事前にそうじゃないと言ってもらえたほうが、ある意味正気でいられる。すぐに捨てられるわけじゃない、と。
悔しくも納得していると、ちゅ、鼻先にキスを落とされた。続けて、額に、頬に。くすぐったさに目を閉じると、今度は瞼を啄まれた。
なんだ、コレ。犬猫に舐められたら、こんな気分になるんだろうか。つい、くすくすと笑みがこぼれてしまう。込み上げてきたはずの熱も、ゆっくりと落ち着き始めた。
なんだか、子どものコミュニケーションみたいだ。セックスするって、決まっているってのに、じゃれるだけのように思えてくる。互いの体温がすぐそばにあって、力みが取れる。
どうせベッドに寝転ぶのなら、欲を満たすことがしたい。でも、こんなふうにゆるゆると転がるのも、存外悪くないのかも。柔らかく唇を寄せられるたびに、胸のあたりが温かくなってくる。
「つーわけだから」
「ん、ふふ、ん?」
「どんなに焦らされて怖がんなよ」
「こんなんで怖がるとかないだろ?」
「そ? ならいいけど」
一つ二つ言葉を交わすと、じゃれ合いには不釣り合いな不敵な笑みを向けられた。ゆっくりするって言っておきながら、そんな獰猛な顔すんの? 首を傾げると、改めてドラケンに口付けられた。柔らかく唇が沈む。そのまま、たっぷり三秒。もったりと体温が離れていったかと思うと、こつん、額をぶつけられた。
「今日は、オレのやりたいようにするからな」
「なにその、普段はやりたいコトできてない~みたいな言い方」
「オマエが嵌めろ嵌めろ言うからだろ。とにかく今日は、どんなに強請っても、求めても、縋ってきても」
徐々に、ドラケンの声が潜められる。掠れたような響きになって、じん、っと耳に残った。熱は落ち着いた、と思ったのだが、そんなことはなかったらしい。体の内側で、ちゃんとくすぶっている。煽られれば、すぐに燃えてしまう。それだけ、オレがコイツとのセックスにのめり込んでいるということ。いつだって、もう挿れてと強請るのはこっちだ。そういう意味では、毎回オレ本位のセックスをしてくれている。
「ゆっくり、するから」
それを思うと、今日くらい、コイツの好きにさせても良いか。こくんと頷くと、ソイツはやたらと嬉しそうに破顔してから、オレのこめかみを撫でてきた。
そして、どうなったかって?
そいつの言うところの「ゆっくり」に、これでもかと掻き乱される羽目になった。
「な、ドラケ、ぉれ、も」
「んん?」
「も、ぉ、むり、むりぃ……」
まずは、服を着たまま、愛撫が始まった。最初は、顔にバードキスを施してきたときくらいの可愛いものだったのだが、体に移るともうそれでは済まなかったのだ。
あの大きい手、五本の指で、くまなく舐られた。服を一枚も脱いでいないのに、捲られてもいないのに、〝舐られた〟と、感じたほど。なんだあの艶めかしさは。激しく穿たれることは度々あったが、衣服をまとったままこんなにも貪られるとは。この男、どこにその本気を隠していた。
確かに、なにも言わずにこんなことをされたら、コレが最後なのかもしれないと勘違いしていたことだろう。最後と決めたから、丹念に犯されるのだ、と。
「ぬぎ、たぃ」
「はは、ソレ何回言うんだよ」
「だって、直接触ってほしい、から……」
「焦らすっつったろ」
「そうだけど、さあ……」
じ、とオレを組み敷いた男を見上げると、考え込むような素振りをする。あくまで素振りだ。あの分厚い面の皮の下では、悪い顔をして笑っていることだろう。だが、それを指摘しては、拷問のような焦らしはまだ続く。脱いですらいないのに、これ以上甘イキさせられては堪ったもんじゃない。
じっとりとした下肢の違和感に、もそ、内腿を擦り合わせた。
「ま、そろそろ良いか」
「ぁ」
長考を経て、ドラケンはオレのシャツに手を掛けた。
どうして、今日に限って部屋着にしなかったのだろう。スエットだったら、ボタン一つ一つ、外すなんて手間を取らせることもなかったのに。いや、普段だったら、シャツだろうと、かっちりとベルトを締めていようと、一・二・三と数えるうちに全て脱いでしまえる。
ぷつ、ぷつ、と小さなボタンを、これでもかと時間をかけて外しているのは、誰でもない、ドラケンだ。勢いよく脱ぎ散らかすのを、今日は許してはくれない。一つ一つ、丁寧にオレを暴いていく。まるで、プレゼントの包み紙を破かずに開くような手つき。ゆっくりと脱がされていくせいで、変に興奮が煽られる。
「は、やくっ」
「焦んなって」
下を脱がすために腰を持ち上げられると、勝手にかくかくと卑しく揺れてしまう。ふるん、とボクサーから飛び出た陰茎は、すっかり充血して反りかえっていた。切っ先からは、当然のようにぽたぽたとカウパーが零れている。濡れすぎて、ローションをぶちまけたあとのよう。なんなら、陰毛も湿っている。整えているというのもあって、比較的薄い茂みは、水気を吸って平らになっていた。
そんな、生え際に、ひたり、指が乗る。ざらついた人差し指と、中指。その二本の腹が、乗る。
「ぁあッ……」
「はは、腰揺れすぎ」
「やだ、も、たのむから、さわって」
「脱がしたばっかじゃん。もう少し楽しもーぜ」
「あゥ」
からかうように指先は生え際を擦ってくる。すぐそばには、勃起して涎を零す陰茎があるというのに、そっちはスルー。恥骨のあたりを撫でるばかり。その度、堪え性のない腰は艶めかしく揺れた。
何とかして、腫れたナニを慰めたい。いっそ自分で扱こうかとも思ったが、服の上から弄られているときに「使うな」と釘を刺されている。勝手に扱いたら、後ろ手に縛られてしまいそう。
呻きながら、ぎゅ、指先にベッドシーツを引っかけた。足の指も丸めて、どうにか欲を堪える。だが、堪えるばかりでは、何も解決しない。情欲が溜まるだけ。じわ、じわり、身体には悦の染みが広がっていく。
「うぅう~……」
だらしなく開いた足が、ぴくぴくと震える。一切触って貰えていない後孔も、きゅんきゅんと疼いていた。きっと、こっちの有様には気付いているのだろう。わかった上で、さりさりと恥骨部を撫でている。
いや、指に、少し力が入った。皮膚をわずかに沈ませる。硬い爪先が、掠めた。ざり、と、引っかか、れ、る。
「んッ」
たったそれだけの刺激で、がくんと大きく腰が揺れた。際どいところを引っ掻いた指は、淡々と離れていく。やだ、もっと触ってよ、触ってってばあ。その指を追うように腰は浮くが、軽く達した体で腰を浮かせ続けることなどできず、すぐにベッドに戻ってしまった。そのあとも、波のようにやってくる欲に任せて、腰が揺れる。腫れたペニスはぺちぺちと自身の腹を叩いていた。細やかな刺激ではあるが、ないよりはマシ。浅ましい姿をじっとりと見下ろされていることは理解しているが、揺れる腰を自制することはできなかった。
「すけべ」
「あ゛ひ」
ふと、男に囁かれる。ぐっと顔を近づけてきたソイツは、オレの耳殻をやんわりと食んだ。それから、唇だけを使って、何度か軟骨を揉まれる。
「ぁ、ぁ~、ぅ」
耳元でする濡れた音を聞き入っていると、今度は胸元に刺激が訪れる。大きな手の平が、やんわりと胸を這っていた。突起を避けて、皮膚の表面だけを撫でられる。素面だったら、ナニ? と聞き返せるところだけれど、熱に浮かされた体じゃ、そうもいかない。せめて、中心、乳首を触ってくれないか。ぷっくりと張り出した乳輪を撫でてくれるのでもいい。
息を荒げながら、妄りに身体が打ち震えた。
「そんなに触ってほしい?」
「さっきからそう言ってんじゃん……」
「ちんこのことだと思ってたワ」
「しらじら」
しい。最後まで、その単語を言い切る前に、声が詰まった。なんでって、ドラケンの指が、突起に伸ばされたから。あ、え、嘘。触ってくれる? 二本の指が、そっと勃起している乳首に添えられた。
コ、りっ。抓まれる。挟まれる。きゅっと、睾丸がせり上がってくるのが、嫌でも、わかった。
「んぁあああッ」
薄い白濁が、確かに切っ先から噴き出た。けれど、ちゃんとした射精とは言えない。甘出しとでも言えば良いのだろうか。上手く吐き出し切れなかったせいで、まだ陰茎は反り返っていた。こちらを向いた尿道口は、ぱくぱくと震えている。
「きもちよさそー」
「ぁ、ちが、やだ、これくるし、」
「苦しいけど、イイだろ?」
「よく、な、」
「ほんとに?」
「ぅ」
「ほんとに気持ちよくねーの?」
「ぅう、ン」
しばらく動きを止めていた指が、じんわりと動き出す。突起を擦り、捏ね、先っぽを引っ掻き、また擦る。どうせなら、乱暴に潰してほしいのに、与えられるのはまろい刺激ばかり。じれったくて、胸を張りだしてしまう。
にんまりと笑うドラケンに、一体なんと言えば良いのだろう。どう求めたら、応じてくれるだろう。オレがどれだけ強請っても、好きにさせてもらうと言っていた手前、満たしてもらえるとは限らない。けれど、一抹の希望を捨てることもできない。
勝手に垂れてきた鼻水を啜ってから、震える手を、そっと胸元に引き寄せた。自分で、弄り回せたら、どれだけ良いだろう。でも、そんなことをしたら諫められてしまう。だから、だから。
「ん、ぁ」
「お」
平らな胸に、指を添えた。乳輪にも触れない位置。これで自分が女だったらたわわな乳房を歪ませながら乳首を強調できたことだろう。けれど自分は男で、柔らかな脂肪は付いていない。ぎゅ、と胸部を挟んで見せたって、わずかに突起が張り出る程度。それでも、やってみないよりは、いい。
「き、もち、ぃい、から、もっと、……さわって」
「……いーよ、そのままな」
「ぇ、あ、あ゛ッ」
ぐぢ、り。軽く抓まれていたはずの突起が、形が歪むほどに押し潰された。一方、触れてもいなかったほうは、くるくると乳輪を撫でつけられる。
苛烈な刺激に意識が持っていかれては、焦らすような物足りなさに見悶える。もう、どちらに集中すればいいのか、さっぱりだ。ただ、胸を弄られる度に、腰は揺れてしまう。
乳を弄られて、こんなになるなんて。
「も、ァ、いた、ぃたい」
「なら止めるか」
「やだッ」
「はは、なにそれ」
「いたい、けど、きも、ちぃ……」
千切れるのではと思うくらいに抓られても、びりびりと腰に甘い快感が走る。焦らされているほうにも、同じだけの圧が欲しい。胸を押さえてる指を力ませると、ふ、と吐息だけでドラケンが笑った。か細いソレが、突起にかかる。たったそれだけで、自分の口からは甘たるい嬌声が上がった。
「こっちもな」
「ぅ、んッ」
やっとだ。乳頭に伸びてくる指を眺めていると、腰がざわつく。かすかに触れた瞬間、じゅわりと何かが漏れた。くにくにと捏ね繰り回されれば、再び淡い射精感が襲ってくる。
嫌だ、下に触れてもいないのに、また甘く達してしまうのは。下腹にぐっと力を込めてみるが、ぐちぐちと乳首を弄られるせいで、上手く堪えられない。
「んン゛ッ」
結局、ペニスの先からは薄い精が散った。ぴゅ、ぴゅ、と漏れたそれは、自分の腹を汚す。満たされない射精に、腹に乗る微かな熱。依然として、二つの突起は男の手で弄ばれている。半開きになった口からは、つぅ、と唾液が伝い落ちた。
「ど、らけ、ん」
「ん~?」
「も、やだ、つらい、うしろもほしぃ」
「欲しがるなあ?」
「だって、だってぇ……」
もう一度鼻を啜ると、勝手に声は涙ぐんだ。胸を挟んでいた手が、おろおろと腹へと移動する。さらりとした体液が、手指に擦れた。もっと下を触りたい。かろうじて腫れている陰茎を気が済むまで扱きたい。けれど、それをしたら、もっと焦らされる。……仕方なく、下腹を擦るに止めた。
この中を、暴いてほしい。いつもだったら、とっくに捻じ込まれて、前立腺やら結腸口やら抉って貰えているところ。与えられているはずの悦を思って、きゅ、きゅと腹を押した。記憶に染み付いた快楽が、うっすらと蘇る。しかし、欲しいだけの刺激には程遠い。
「かわい……」
ぽつりと呟かれた言葉を、否定する気力はなかった。
代わりに、ゆっくりと胴体に移動し始める手に、意識が向く。悶えるように身じろぎをすると、上にある顔はにんまりと笑みを濃くした。
「ぁ、あ」
か細く漏れる嬌声に、期待が乗り始める。
ソイツの両手は、オレが触れている下腹を過ぎた。萎えた陰茎のすぐそばにまで迫っている。ア。また、裏返った声が響いた。
む、ぢり、と。さらけ出していた内腿に、指が食い込む。
「っはぁン」
「なあ、三ツ谷」
「ん、んっ?」
「どっちから触って欲しい?」
「どっち、って」
「ちんこと、尻。どっちがいい?」
「え」
突然投げられた二択に、思考が固まる。どっち、って、どっち? どっちも触ってほしい。一遍に弄り回してほしい。真っ先に欲に塗れた考えが過るが、どっちと聞かれている以上、どちらかを選ばなくてはならない。
じ、と熱を孕んだ視線を受け取めていると、さりさりと指先で太腿を撫でられた。皮膚が薄いせいだろうか、やけに感度が高まっている。指紋の凹凸すら、感じ取れそう。口から、情けない声が漏れた。
「どっち」
改めて、ドラケンは尋ねてくる。どっち、どっちなんて、決められない。中途半端に達し続けている前を痛いくらいに擦られたいし、疼きっぱなしの後ろを捲れそうになるまで暴かれたい。もう、いつもみたいに、無遠慮にどっちも嬲ってくれたら良いのに。
ぐるぐると思考の海で溺れていると、太ももを捉えた両手が不穏に動き出した。
とん、と、会陰を叩かれる。一定のリズムで、ソコを撫でてきた。その奥には、気持ちくなれるところがある。だが、あえて会陰部から責められたことはない。多少、むずむずする程度。……普段通りなら、くすぐったいで済んだろう。
だが、今日は散々なくらいに焦らされている。理性がぎりぎり決壊しないところで、責め立てられている。はくん、口が空気を求めて開いた。じんわりと、熱が集まってくる。とん、とん、とん。股座に触れる手は、止まっては、くれない。
あ、どう、しよう。どっちとか、考えられなくなってきた。もう、そのまま後孔でもペニスでもないところを、触れてくれれば、イイ、よう、な。
「……三ツ谷?」
「ぁ」
ふと、名前を呼ばれた。手の位置はそのまま、顔を覗き込まれる。
「あ」
ぶる、と、組み敷かれている体が震えた。視界に、水の膜ができる。澄ましながらも、どこか楽しそうな顔が、ぼやけていった。
「あ゛」
ぱちと、瞬きすると同時に、雫が頬を伝っていった。顎に辿り着く前に、それは輪郭線から首に流れる。水滴が、皮膚を、走った。
がく、ん。腰が、揺れる。
「~~ッあぁあ♡」
いつの間にか首を擡げ直した切っ先から、ぶしゅっと透明な液体が噴き出した。体液が尿道を抜けた時の、解放感。快感にも近いそれが、中心から全身へと広がっていく。もう、力が入らない。手足を投げ出して、ついでに頬もだらしなく緩んだ。唯一、腹筋だけは名残でぴくぴくと痙攣している。
「あ、あァ、あ~」
「……なあ、どっちがイイか決まった?」
「あ、ぅ、うう」
「三ツ谷ぁ、聞こえてる?」
「ん、ヴ」
「みーつーやー」
何度も呼びかけられているなとは思った。けれど、脱力してしまったせいで、どうも返事をできない。会陰から前立腺に届いた痺れが心地よくて、快感の沼から抜け出せないのだ。どうにか意識を上がらせようとするが、じわり、残滓が漏れるたびに沼に引きずり戻される。
「う」
「おい、戻って来いって」
ふと、こめかみに柔らかい感触がした。わずかに場所を変えながら、ふにふにと熱が触れてくる。なんだろ、コレ。虚ろな視界を鮮明にすべく、理性が叱咤を打つ。
やっとの思いでわずかに意識を向けると、チュッとリップ音が聞こえた。わかった、キス、されてる。オレの龍を丹念に唇でなぞっているんだ。ついでに、頬は指先で撫でられていた。手と、口と、それぞれ使いながら、あやされている。
「ぁ、う、んん」
「ん?」
「ど、らけん」
「お、戻ってきた」
「ドラケン、」
「なに?」
小首を傾げる様を見上げながら、重たい腕を持ち上げた。今にも溶けてしまいそう。そうなる前に、伝えないと。
どっちがいいか、言わないと。
「ん、ふふ、ふ」
心地よさの山を過ぎたからか、体中がふわふわと落ち着かない。どこもかしこもくすぐったくて笑えてくる。くふくふと声を漏らしながら、どうにか投げ出していた脚を曲げた。胸についた膝に、やっとの思いで手を引っかける。そこまで体勢を変えたところで、ドラケンがゆっくりと退いていった。
こっちは全裸。でも、ソイツの衣服は一切乱れていない。コイツの好きにさせると、こうなるのか。素面だったら、オマエも脱げと文句を言ってたことだろう。だが、享楽に溺れた今は、どうだっていい。ふわふわと気持ち良いから、許せてしまう。それを口にしたらしたで、「危機感持てよ」っていわれるんだろうな、きっと。
両脚を抱え、できるだけ股を開く。重心を移して腰を浮かし、疼くソコを曝け出した。ひくひくと震える媚肉が、剥き出しになる。
「こっちが、いい」
甘ったるい声を出しながら、どうにか指先を割れ目に伸ばす。震える縁に爪先を引っかけた。くん、と二本を指を開けば、つられて縁は拡がっていく。
「どらけん、すきだろ? とろっとろのけつまんこ」
「……オマエのだから好きなんだよ」
「だからそういうのはいいの、はやく」
だんだん、クチを拡げているだけでは物足りなくなってきた。重苦しいため息を吐かれるのを余所に、つぷつぷと、指を埋めていく。今日は一度も触れていないのに、すっかり熟れて柔らかくなっていた。とはいえ、ちゃんと準備をしたわけではないから、肉がきゅうきゅうと指に纏わりついてくる。
「ぁ、あん」
「……まーたオマエは勝手にそういうことして」
呆れた顔をしながら、ドラケンはオレの尻たぶに手を添える。指を突き立てているソコには触れず、ただ、ぐ、っと、谷間を割り開いてきた。
「アッ」
「……」
指を締め付けていた後唇が、強引に開かれる。垂れた先走りで濡れたソコがくぱぁっと開いた。けれど、指はもうほとんど根元まで埋めてしまっている。ちょうど指先は前立腺に沈み込んでいた。ふっくらとしたソコをきゅううと押すと、だらしのない性器が膨れ上がる。腹につきそうなくらいまで沿ったソレは、真っ赤な亀頭を皮から覗かせていた。体勢が体勢なのもあって、とろとろと先走りで濡れる切っ先がよく見える。
「……三ツ谷、指抜け」
「え、やだ」
「いいから」
「じゃあドラケンのハメてくれんの」
「それはまだ」
「じゃあやだ」
「いいから抜け、ぐずっぐずにしてやっから」
「もうぐずぐずだし」
「もっとぐずぐずのとろっとろにする」
「もっと……?」
ローションでもぶちまけるのだろうか。確かにそれなら、もっとぐずぐずでとろとろになる。滑りが良いほうが、指の抜き差しも激しくできるし。まだハメてもらえないのは切ないが、オレよりも長い指を突き立ててもらえるなら、まあ、いいか?
仕方なく、埋めていた指を引き抜いた。ちゃんと、前立腺を押しつぶしながら、ぢゅぷッと勢いよく抜く。引っ張られた内膜にゾクゾクと痺れるような快感が走った。
「ん、イイコ」
「ぅえ?」
指を抜いたばかりの後孔はぱくぱくと物欲しげにクチを動かす。すぐに指を突き立ててもらえるのかと思ったが、ドラケンは淫靡にヒクつくそこを眺めるだけだった。しいて言えば、腰をもっと浮かせられたくらい。本当に、尻穴が天井を向く。電気を浴びたそこは、さぞ鮮明にソイツの目に映っていることだろう。さすがに、羞恥が込み上げてくる。
「ふ、」
「ぁ」
まだ、指は入れてもらえない。代わりに、笑みを伴った吐息がかかった。空気の流れが変わって、媚肉が甘く震える。
あれ、なんか、顔、近くない?
ちらりと疑問が過ると同時に、がぱ、とドラケンの口が開いた。濡れた粘膜が見える。とろりと、舌先から唾液が垂れた。
「ッは、ぁうそッ」
「んむ」
「ッヒ」
そして、ぱく、り。熟れた穴に、むしゃぶりつかれた。なんの、躊躇いもなく。当然のように。舌が蜜壺に沈んでいく。
「ん、ぢゅ」
縁に吸い付かれながら、ねっとりと舌が這ってくる。分厚い舌に舐られるや否や、腹の中が激しく痙攣しだした。ぐぢゅ、ぢゅるっとたっぷりと唾液を使う音が聞こえると、今度は内腿が小刻みに震えだす。
なに、なんで、どうしてそんなところを舐めている。気持ち良さもあるが、困惑が先だってしまい、ぎゅっと喉が閉まった。おかげで、上手く声を吐き出せない。はくはくと口は動くものの、呼吸もか細くなってしまった。
血は巡っているのに、酸素が足りない。寝そべっているのに、くらくらとしてきた。品のない水音は、なお響いている。前をしゃぶられたことはあるが、こっちは、ない。これが、初めて。まずい、困った、嵌り、そう。
散々なくらいにクチを舐められたところで、窄みにツンと舌先が埋まる。じんわりと拡がる感触に、またナカが疼いた。あっけなく自分の指を呑んだくらいだ、唾液を纏った舌なら簡単に入ってしまう。ああ、ほら、ほら、蕩けた蜜壺に、滑り込んで、くる。
「~~ッ」
「ぅ、ん゛」
一際激しく、ナカがうねった。暴いてきた舌を、粘膜がきゅっと捕まえる。呼応するように、つま先もぎゅっと丸くなった。これじゃあ、快感を逃せないな、体中に溜めてしまう。変に冷静な自分がそう思った瞬間、悦に満ちた圧が局部に走った。尿道から、勢いよくせり上がってくる。
「あァあ゛あン♡」
「ぶ、」
すぐに、体液の噴き出る音がした。切っ先がこちらを向いていたのもあって、びしゃりと自分の顔にかかる。セルフ顔射じゃん、なんて過ったものの、青臭さはない。粘着いた感触もしなかった。
「あ、あは、またしぉふいちゃっ、たあ……」
腹筋はもう馬鹿になってしまっている。内腿も同様で、びくびくと小刻みに震えて止まらない。どこもかしこも気持ちが良くて仕方がないったら。だらしなく緩んだ口からは、快感に酔った笑い声と喘ぎが引っ切り無しに溢れてきた。
未だ尻に顔を埋めているドラケンからは、何の返事もない。そりゃそうだ、こっちのクチを塞いでいるんだから。逆に、そこで喋られたら、もう一発潮を噴いてしまいそう。咥えられながら喋られたときも、声の振動が気持ち良くてぶっ放した覚えがある。
「ンッ」
動きを止めていた舌が、ゆっくり、ナカへと入り込んでくる。粘膜を舐めて、唾液をまぶしに一旦抜けて、また熟れたソコに圧がかかる。ぐずぐず、ぐちゅぐちゅ、割り開かれていく。
もう、ほとんど開きっぱなし。きゅんきゅんと疼くが、完全に窄まってはくれない。入り込んでくる舌を締め付けようにも、上手くできなくなってきた。弛緩したというのか、脱力したというのか、ソイツに支えられていなかったら大の字に手足を投げ出していたことだろう。
「……ぷ、は」
「ヒ」
それでも舐られ続けて、もう何分? やっとドラケンは後孔から口を離した。唾液でべとべとになった口元を、手の甲で拭う。尻たぶや内腿に沈んでいた長い指に目が留まった。なんだか、無性にナカが切なくなってくる。
入れて、はやく、ソレ、入れて。力が入らないなりに、腰を揺らして懇願する。と、ソイツはにんまりと口角を釣り上げた。
「えっろい穴」
「ん、ン」
緩み切った中央に、指の腹が乗った。ぽっかりとした孔に栓をするように一本だけ指が埋まる。締め付けたいのに、どうもソコはいうことを聞かなかった。おかげで、なんの抵抗もできないまま指の侵入を許してしまう。入り口をくぐって、前立腺を掠めて、自分の指じゃ届かないところまで。けれど、最奥には辿り着かない。これじゃあ、足りない。
「ぁ、あ~、ぁああ」
意味を持たない喘ぎを漏らしながら、なお腰を揺らした。ナカはふわふわとうねる。物足りない、指を足してほしい。それか、もっとずっと、太くて硬くて熱いのが、ほしい。
雄を求めているうちに、視界が滲んできた。
「……泣くなって、そろそろ入れてやっから」
「もおゆっぐりすん゛のやだぁ……」
「ガン泣きじゃねえか」
「だれの、ンせいだとおもっ」
「オレ」
よくわかってんじゃねえか。悪態を吐きつけようと思ったところで、ぱっと掴まれていた尻が解放される。ぼふんと浮いていたそこがベッドに落ちた。相変わらず、軋まない。二人分の体重を受け止めても、平然としている。難点を上げるとすれば、大の男二人が寝そべるにはちょっと狭い。そんなの、強引にこじつけた難点か。
ベッドのことはさておき、余計な音が立たないせいで、ドラケンが前を寛げるのがよく聞こえた。布擦れの音と共に取り出されたそれは、赤黒く猛っている。表面に浮き出た血管の、なんとまあグロテスクなこと。けれど、雄々しいソレから目を逸らせない。
手早くスキンを被せたドラケンは、ひょいとオレの肩脚を担いだ。切っ先は、すぐにぐずぐずに蕩けた縁に押し当てられる。
「ぁ」
「は、すげー、ずぶずぶ入ってく」
「ぁ、あ、あっ」
「あー……、イイ」
ほとんど捲れた縁に、亀頭がめり込んだ。一気に捻じ込まれることはない。ゆっくり、じんわり、これでもかと時間をかけて押し入ってくる。待ち望んでいた圧に、媚びるように肉が纏わりついた。
「っ、あ、アッん゛」
みぢみぢとナカを割り開き、怒張が蜜壺に埋まっていく。最奥まで、どれくらい? もう少し? まだ余裕はある? これでもかというほど蕩けさせられたせいで、さっぱり感覚がつかめない。
「ぁ」
「っと」
ぴたりと、男の動きが止まった。切っ先が、深いところに触れている。おそらく、触れていると思う。しかし、めり込んではいない。イイところに、当たっているような、当たっていないような。つい、腰を前後左右、不埒に動かしてしまう。
「うわ」
「あ、あぅ、う~」
「おい腰、揺れてんぞ」
「と、まんな、ぅ、動け、ってばぁ!」
「もうちょい待てって、もっとよくなりてーだろ」
「まてない、」
「いいから、ほら、息吸え、ゆっくりな」
「うぅぅ……」
ここで駄々を捏ねたら、いい加減揺さぶってもらえたろうか。声は優しいから、折れてくれたかもしれない。
だが、囁くように説かれると、どうも言うことを聞いてしまう。従ってしまう。
言われたとおりに、ゆっくりと息を吸った。びくびくと腹が震えるせいで、思うように空気を取り入れられない。喉を詰まらせていると、担がれていた脚を下ろされた。流れるような手つきで、ドラケンはオレの腕を引く。
「ん゛」
体を起こされると、必然的に埋まったナニの角度も変わる。幾何か深くなったろうか。最奥への負荷が増した気がする。けれど、まだソイツが動く気配はない。とん、とん、とあやすように背中を叩くだけ。何度も達した体は、そんな些細な刺激にも掻き乱される。行き場のわからない快感を持て余して、ぎゅ、と、迫った肩にしがみついた。
「ぁ、あー……」
「落ち着いてきたか?」
「ぅん、んん、」
「もっかい。息、吸って、……ゆっくり、吐いて」
「ん、ふ」
一つ一つ指示されるのに従って、どうにか息を吸い込んだ。言われた通り、ゆっくり吸って、ゆっくり、吐く。そうやって何度か深呼吸をしていると、熱に浮かされた頭も回りだす。酸素が行き届いたせいだろうか。ついでに、自分の妄りがましい有様に羞恥が込み上げてくる。
こんなタイミングで理性を取り戻させるなよ。ほとんど根元まで怒張を呑んだ状態で、素面に戻るなんて。あんまりだ。ガツガツやって、目一杯トんで、朝起きたら「気持ちよかった」ってことしか覚えていない。そういう、セックスで良いだろ。良くないの? 良くないから、こんなことを求められたのか。
ここまで手を掛けられると、愛されているかのような心地になる。いや、実際、今は愛してくれているのかもしれないけれど。こっちがソレを許容できるかは、別。好きだ嫌いだ、惚れた腫れた。そんなややこしい感情に振り回されたくない。気持ち良いだけで、いい。
いい、ってのに。
「どらけん、」
「ん?」
「も、焦らすの、やめて、こわい」
「ふは、結局怖がってんじゃねーか」
「だってこんなだとおもわなかった」
ゆらゆらと動いていた腰は、やっと止まった。代わりに、肉壁がこれでもかとソレを締め付ける。お互い、腰を動かさないからか、ナカのうねりがよくわかった。
「あ、ぅ、わ」
「すげーな、オマエんナカ」
「やだ、これ、やだ」
「なんで、良くない?」
「よく、ない、わけじゃ」
ないけれど。じっとしているのに、腹の中は熱杭に媚びている。それを、どう受け止めたらいいかわからない。動くな、止まれ。そう頭は指示しているのに、体はさっぱり言うことを聞かない。
媚肉は竿全体を扱いているし、深いところにあるもう一つのクチは、ちゅくちゅくと切っ先に吸い付いている。ココは、穿たれて初めてクチを開けるものだと思っていた。いや、それはいい。イキすぎて、前後不覚になって、アヘってるときなんかは、自ら開いているかもしれないし。
「ぁ、やだ、とまん、な」
「そんな嫌?」
「ぃ、ぃや」
「ほんとに?」
傍にある頭が、こて、傾げられた。じ、と見つめられると、ナカの吸い付きがきつくなる。ぢゅ、ぎゅぢ、ソレを求める動きは激しくなる一方。ああ、だから止まれって。なんで止まらないんだよ、オレの体のくせに。
「……良くないんなら」
「え」
「やめるけど」
「ぁ」
「抜くか、コレ」
「待ッ、え」
「ん?」
おもむろに、ドラケンが俺の尻を掴んだ。続けて、ぐ、と体を浮かされる。あ、抜けちゃう。離れちゃう。……咄嗟に、脚をソイツに絡めてしまった。
「や、やだ」
「っク、ふふ、ははは、かわいいなオマエ」
「う、うぅう」
おかげで抜かれるかと思った怒張はしっかりと奥まで埋まったまま。ちゅっちゅっと健気に切っ先に吸い付いている。陰茎にしがみつくうねりは、さらに強くなったような気がする。
「なあ」
「なに……」
「気持ち良いだろ」
「き、う、ぅうう」
「あーあー、オレに無理やり言わされたって体で良いから、な」
そう囁きながら、ソイツはオレのこめかみに口付けた。それも刺青を入れているほう。もう何年も、その絵を見ていない。見せていない。いっそ、同じ墨が入っていると、忘れてくれてもいいだろうに。そりゃあ、すっかり同じ柄が入っているのを見てしまったら、なかなか忘れられないかもしれないけれど。
慈しむような口付けを浴びているのに、相変わらず腹の中では浅ましく熱を求めている。馴染んだのは体温くらい。猛々しいソレに吸い付いて、離れる様子は、一切ない。
「イイ、だろ?」
「……うん」
「オレもすげーイイよ」
「うん」
「オマエに求められてるって思えて、すごく、イイ」
「ぅ、ん、ぉ、れも、きもちぃ……」
「……好き」
「ぅ」
「好きだ」
「ぁ、」
「みつや、」
どろりと、声色が蕩けた。いつの間にか額が重なる。吸い込まれるように、唇を合わせてた。一寸の隙間も惜しいと、そこを重ね合わせる。じんわりと熱を分け合ったところで、どちらともなく舌を絡めた。静かに、深く、口付け合う。けれど、堪え性がないのもあって、ぐづり、ぬづり、すぐに卑猥な水音が響き出した。
「っはぁ、……ン」
息継ぎで一瞬離れるものの、吸った傍から塞がれる。勢い余ったのもあって、体ごとベッドに倒れてしまった。覆いかぶされる姿勢になると、埋まる角度が変わる。ぎゅ、ぷ、根元まで入ったのは、気のせいだろうか。なんだか、交わりが深くなったように思える。自分の矜持が無くなるところに、沈み込んだ。
「すき、」
畳み掛けられるように、甘い言葉が脳髄に響いてくる。
うん、知ってる。最近、抱かれる度に言われるから。よく、知っている。改めて、言う必要なんか、もうない。というか、言わないで欲しい。
流されて、しまいそうだから。
「ぉ、れも、」
「ん?」
ぎゅ、と男にしがみついた。背中に回した手は、がり、と皮膚を引っ掻く。痕を残されることはあっても、残さないように努めてきたのに。そう思いつつも、腕から力を抜くことはできなかった。
「好き」
あ、言っちゃった。
でも、言わされた、って体でいいって、言ってたし。
どうにか顔の角度を変えると、向こうもこっちの顔を見ていた。近すぎて、なかなかピントを合わせられない。切れ長の目が見開かれているのは、錯覚だろうか。ぱち、ぱち、と瞬きをしているうちに、焦点は合ってくる。……やはり、その目は、見開かれていた。驚いているというか、呆気に取られているというか。
「は、やば」
ぽつり、ほとんど吐息のような声がした。
「うれしい」
そう零すと同時に、今度は奪うようなキスをされる。合わせて、ぐっと腰を押し付けられた。ぐいぐいと、真上から圧をかけられる。ほとんど開いていたソコは、切っ先をしっかりと受け取める。ぐずり、ぐちゅり、飲み込んでいく。弁が開かれ、最奥に、ぐ、ぽり、嵌った。
いく、いってしまう。両手両足を使って、ソイツにしがみついた。
「~~~~ッッ♡」
声は、出なかった。唇を重ねていたせいで、出せなかった。すべて、ドラケンに呑み込まれた、とも言う。
がっちりと抱き着いていると、腹の中で熱杭も震えた。薄い膜越しに、精を吐き出される。
「ぁ、ぁう、う」
ずるんと四肢が脱力した。それぞれは、ベッドの上に散る。合わせて、埋まっていたソレも抜けていった。ぽっかりと空いた穴は、なかなか元には戻らない。
しかし、妙な充足感がある。穴は開いているのに満たされているなんて、どういうことだ。焦らされた末に達したから? 違う、そうじゃない。
「しんどかったろ、ありがとな、我儘聞いてくれて」
「ッ」
ふと、頭に手が乗る。長い指が髪を潜った。それから、やんわりと撫でてくる。その顔は、さっきと、同じ。嬉しい、と、口にしたのと同じ顔だ。
好きと、言ったら、この男はこんな柔らかい顔をしてくれるのか。その顔で、オレを求めてくれるのか。求められた先に、こんな充足感があるとは、知らなかった。
困ったな、嵌りそう。
「なあ」
「ん?」
口説くためにされたってわかってる。なのに、どうも絆されている。我ながら、チョロい。チョロすぎる。だが、この男の穏やかに満たされた顔を見られるのなら、悪くないと思う自分もいる。
諸々片付け始めたのもあって、ドラケンの視線はオレから離れている。なんなら、背中を向けていた。そこには、オレがつけた爪痕がくっきりと残っている。一か所は、血も滲んでいた。ぼんやりとソレを眺めながら、はくり、唇を動かした。
「ベッド、ダブル買うんなら」
「は、ンだよ突然」
胡乱な顔をしてドラケンは振り向いた。それ同時に、気怠い身体をどうにか起こす。目が合ったところで、不敵に笑ってみせた。
「付き合ってもいいよ」
まあ、蕩けた笑みになっていたかもしれないけれど。