天国手前の

 つるつと、その人の掌が肌の上を滑る。曰く「シルシル」する肌触りを念入りに確かめるように。挙句の果てには、掌だけでは飽き足らず、すりっと頬を寄せてくる始末。
 あの、あのあの、あのお、あんたそういうキャラでしたっけ?
 滅多にない、その人からの過剰なスキンシップ。自分は一体、どうしたらいいのだろう。むしろこれは、誘われていると思うべき? いやそんなまさか、北さんがこういうモノを使って誘ってくるとはとても思えない。あくまで、俺のボディーケアの一環。こういうことしたら喜ぶんちゃうかと閃いたか吹き込まれたかしたために、やってくれているだけ。でなきゃ、頭のてっぺんから足の先まで牛乳石鹸で洗い上げていたこの人が、ボディスクラブやらボディクリームやらを持ってくるとは思えない。
 誰やねん、北さんにそんなん吹き込んだ奴。ああもう角名か、角名しか考えられへん。そういや、しばらーく前に意味わからんメッセージ送りつけてきよったな、どこそこのゼリーを寄越せとかいう内容の。この、今、俺の目の前で発生している緊急事態を予見してアレを送ってきたのだ、絶対だ、そうに違いない。
 くるくると思考を巡らせている間も、愛おしいその人は俺にぴたっと肌を合わせて滑らかさを堪能している。下心なく、満足気な顔をして、頬ずりをしてくる。
 なにこの生殺し。
 混乱の海から顔を上げるころには、もう全身を撫でまわされた後だった。
「きたさん」
「ん?」
 混乱から抜けてなお、持ち上げた腕は力んで震えている。考えなしにその人の二の腕を掴んだら、くっきりと指の跡がついてしまいそう。力むな力むな、必死に自分を制しながら、両手で北さんの腕に触れた。俺に負けず劣らず、滑らかな肌。それもそのはず、俺の体を丁寧に洗うと同時に、この人は自分の体も洗っていたのだから。
 肌が傷ついてしまわぬようにと、この人は加減して指先を滑らせていった。
『痛かったら言うてな』
『あんま強く擦ると、逆に肌傷めてまうんやって』
『……なあ、沁みたりせえへん?』
 風呂場でかけられた言葉がふつふつと蘇ってくる。あれこれ甲斐甲斐しく気遣ってくれるのは、愛されている心地がして堪らなく嬉しいが、一方で「俺、男ですよ、そんなん気にすることでもありませんて」と思う自分もいる。くすぐったいのだ。あの人にあんまりにも大切にされると。
 そのくせ、俺が丁寧に丁寧にすると「なあ、俺も男なんやから、そんなんする必要、ないんやで?」と恥ずかしそうに言ってくる。似た者同士、なんかな。俺ら。
「侑? どうした、嫌やった? ……香り、強いしな」
「ッ嫌やないです! ただ」
「ただ?」
 きょと、とその人は小首を傾げて見せる。あざとい、と思ってしまうのは自分だけだろうか。だって、あざといもんはあざとい。こっちの疚しい思いになぁんも気付いていませんと言いたげな顔つき。実際、この人は俺の悶々とする思いに気付いてはいないのだろう。それなのに、どうもあざとく見えて仕方がない。
 いっそのこと、俺に貪られるのも狙ってやっていると言ってくれたらいいのに。
 鼻息が荒くなりそうなのを必死にこらえて、静かに息を吸い込んだ。……鼻孔を掠める香りに、頭がおかしくなりそうなのは、とりあえず意識の外に追い出しておくことにする。
「北さん、から、こういうことされると……、俺も触りたくなる、つか」
「触ってええよ」
「……俺が触るだけで満足すると思います?」
 するわけないだろうが。いくらあんたでも、それくらいわかるでしょう。
 じっとりとした目で北さんのことを見つめれば、一拍置いてから「それもそうか」と言いたげに目線が泳いでいった。
 ついでに、その瞳には一抹の反省が滲み出す。やりすぎた、気持ちええなと思って、ついつい好き勝手してしまった。確かに、おんなじこと俺もされたら、焦らされて堪らんようなるわ。ふつふつと、恥じらいが大きなその瞳に映し出される。……案外、北さんてわかりやすいよな。昔は、何考えてるか、よおわからんし、機械みたいな人やと思ってたけど、熱も欲もちゃんと持ってはる。
 さて、自分がいかに恋人のことを振り回したか、わかってくださいましたね。でも、わかった程度で俺が「次からは気を付けてくださいね」というような奴じゃないってことも、よおく知ってらっしゃいますよね。
 二の腕を掴んでいた手が、意志をもって動き出す。その滑らかな皮膚を這いはじめる。
「もっと、こう」
「わ」
 つるつると肌の上を指先は滑る。ざり、と引っかかることもない。保湿に特化しているのであれば、べたついてもおかしくはないが、指先にまとわりつく感触はない。ただただ、滑らか。すべすべ。しるしる。
 腕を登り、肩をなぞり、首筋を掠めてから鎖骨に落ちる。さらに指先は下へと向かい、白い肌を見せつける胸と、薄く色づいた突起へ
 ……心なしか、ぷっくりと膨れているように見えるのは気のせいだろうか。
「ぁっ」
 指先が乳首に引っかかった瞬間、その人から甘い声が漏れた。そっと抓んでみれば、なんとなく芯を持っている。ああ、気のせいではなかった。
 もう、体を洗っていたときや、これでもかと肌に触れてきたときのような落ち着きはない。今から貪られる、と身構えつつも、期待が滲み始めている。やわやわと捏ね続けていれば、濡れた甘さが鼻へと抜けていった。触れていない反対側も、疼きを露わにして、存在を主張し始める。肌触りは幼子のように滑らかなのに、その突起だけはすっかり熟れてしまっているなんて。
「やらし……」
 独り言ちるように呟いてから、もう一方の突起に唇を寄せた。鼻が近づいた分、より強く香りを感じる。自分の皮膚からも同じ匂いはするのに、この人から香ってくると思うと、やけに艶やかに思えてくる。
「あ」
「っぅ」
 がぱりと口を開けたのがその人にも見えたのだろう。怯えるような声が漏れる。何に怯えるって、噛まれることへの恐怖。……ではなく、これから襲ってくるだろう快感に、だ。この人はとにかく痛みへの耐性が強い。が、快感へは滅法弱い。だからこそ、怖いのだろう。また、あの「気持ち良すぎる」刺激に苛まれるのかって。
 俺といたしましては、えっちなことされて散々に身悶え狂って物欲しげにうっとりする姿は大変な絶景なので、我慢せずに気持ちのイイことに身を任せてほしいなといつだって思っているところでございます。
 膨れた突起は、もう眼前。だんだん、しゃぶってほしくてぴんっと粒を膨れさせているかのように見えてきた。可愛いな、えろくて、可愛い。
 内心でにんまりと笑んでから、その突起にむしゃぶりついた。
「~~わッ!?」
「ッ」
 の、だが。どうしようもなく汚い声をあげながら、体を離してしまった。ぢりぢりと、舌に不快感が乗っている。痺れにも近い、感触。味で言うなら、めちゃくちゃ苦い。
 あれ、おかしいな、北さんのぷっくりした乳首をたっぷり舐るはずだったのに。向こうもすっかりしゃぶられる気でいたのだろう、ぽっと頬を染めたまま、あんぐりと口を開けて呆けている。
「ど、どした」
「ま、ず……、えっ北さんのおっぱいがおいしくない……」
「まず俺におっぱいなんてないし、そもそも美味いも不味いもないやろ」
「いや、いやいやほんまに不味いんですって、え、にっがぁ……」
 口内に残る不快感を拭いたくてもごもごと舌を動かすが、一向に消える気配はない。水を大量に飲むか、あるいはその水で口をゆすぐかしないと拭いとることはできないのだろう。なにこれ、なんでこんな味すんの。それこそ、今漂っている香りを味にしたら、こんな苦みを発しそう。……待てよ、これ、て、もしかして。
「うわ」
 ハッとすると同時に、いくらか冷静さを取り戻した北さんは自分の腕をぺろっと舐めていた。すぐさま、その顔は顰められる。苦いのは、乳首や胸だけではない。全身だ。
 この強烈な味は、あのボディスクラブか、クリームのせいらしい。
「……そらまあ、あんなん塗ったらこうなるわな」
「ぁああもお北さんこと舐め回したろ思ったのに!」
「舐め回すて」
「だって、アレ塩やろ、塩塗り込んで、良い匂いするもんなじませてって、食うてくださいて言うてるようなもんやん!」
 そういえば、そんな絵本、昔読んだことがある。全身に塩をなじませてくださいとか、はちみつを塗りたくってくださいとか。なんでこの化け猫、人間に準備させたんやろ、さっさと食うてしまえば良かったのに。そう思って当時は読んでいた。けど、自らおいしく食べられる状態なってくれた上に、さあどうぞと捧げられるのは確かに高揚する。ああ、だからあの化け猫、ああやって食うてたんかな。
 まあ、美味く食えないのならば、元も子もない。ああくそ、折角北さんのシルシルのお肌、堪能しようと思ったのに。
 眉間に皺を寄せたまま、もごもごと口を動かした。今なお、苦みは取れない。ちら、と北さんを見やると、その人も、なんだか口内が落ち着かないらしい。
 ……と、おもむろにその唇が開いた。
「なあ」
「はい」
「もう、舐めてもうたから、手遅れかもしれへんけど」
 北さんは自分の唇に指をあてた。ふに、と、薄くも柔らかなソコが指に合わせて沈み込む。苦い、とつい先ほどまで歪められていたソコ。
 じわり、口内に唾液が滲んできた。
――ココ、やったら、まだ美味く食えるんちゃう?」
 こてん、と小首を傾げながら、その人は、言った。まだ、美味く。一度あの苦みを口に引き入れてしまったけれど、たっぷりなじませた皮膚よりかは、苦くはないはず。
 食べるなら、ここにしとき?
 そんな副音声が聞こえた。口調は努めて冷静、淡々としていていつも通り。けれど、ほんのりと頬が赤らんでいるとか、瞳の縁が緊張でブレているだとか、そこかしこにこの人の欲は、滲んでいる。
 こんなん、食うしかないやんか。
 カッと込み上げてきた衝動に任せて、薄く開いた唇にかじりついた。づるりと早速舌を捻じ込んで、生暖かい口内を弄る。おずおずと差し出された舌に吸い付けば、欲を孕んだ声が鼻を抜けていった。
 手遅れかもしれへんけど。そうこの人は言った。ねえ北さん、良かったですね、乳首と違ってまったく変な味、しませんよ。いつもの北さんだ。欲情してトロトロにふやけだしたあんたの味がする。これなら、いくらでも貪れっていられる。丁寧に磨かれた肌を舌で堪能できないのは残念だが、その分ここを味わうことにしようと思います。
「んっ、ン……、っはぁ、ちょっ、くるしぃ」
「だいじょぶですよ、ほら鼻で息吸うて」
「んぶっ、ぅ……、んっ」
 ど、と胸を叩かれるが、ほんのわずかな息継ぎを挟んだくらいですぐに口づけを再開する。
 苦言を呈したせいもあって、その一秒では北さんは上手く息を吸い込めなかったのだろう。ぴく、ひくんと、苦しそうに体を捩らせる。俺にもう少しばかり余裕があったなら、この人にちゃんと息を吸う間を与えてあげられたのだろうか。……いや、あったらあったで、この人がぎりぎり耐えられるところまで貪っては、わずかに息を吸わせ、また塞ぐなんてことをしかねない。意図的に酸欠にさせて、隙あらば正論を放ってくる頭を蕩けさせる、自分。想像に容易い。俺が切羽詰まっていてよかったですね、一緒に理性ぐずぐずになれますよ。
 ぢゅぶ、と唾液の濡れた音を響かせながら口を離すと、凛とした瞳はすっかり熱に溺れてくれていた。それとなく指を乗せている乳頭も、まるまると膨れきっている。こんなにいやらしく勃起させて、まるで扱いてほしいみたいやんか。
 再び唇を重ねながら、膨れた突起を指で挟んだ。
「んぁッ」
 ほら、口、離さないの。仰け反るようにして体を弾ませたその人を、ぐっと抱き寄せた。頭、どうにか固定したいな。でも、俺の両手は乳首を虐めるのと、腰を抱くのとで埋まっている。
「あー……」
 北さんからギュッて抱き着いてくれたらええんやけど。ぎゅってして! て頼んだら、この人は腕を回してくれるだろうか。乳首をくちぐち責め立てているうちは、引っ付いてはくれない? 乳首は乳首でこりこりさせてほしんやけどなあ。北さん、めっちゃ可愛い声出してくれるし、おっぱい弄り回されてちんこ濡らすこの人、むちゃくちゃえろいし。
 突起を扱く動作はそのまま、目線だけそっと下へ向けた。仰け反ってくれたせいで、胸から下、腹部と、そのさらに下についた性器までよく見える。案の定、グレーの下着はテントを張っていた。それに、じんわりと布地が変色しだしている。ほらもう、とんだスケベ。
 汗ばんできたのもあって、甘さがいっそう匂い立つ。どうしてこの人の乳首、しゃぶれないのだろう。この、乳輪から乳頭にかけてだけでもクリームを塗らずにいてくれれば。次にコレを使うときは、俺がこの人の体にクリームを塗ればいいのか。そしたら、舐りたいところをとっておける。……いや、あかんわ、俺この人の全身隈なく舐めしゃぶりたいもん。
 悩ましいな。ぼんやりと明後日の欲に意識を飛ばしつつ、ぐぢッと乳首を抓りあげた。
「んァ!? ぁ、や、ぃややこれッ」
「嫌? 気持ちええやろ」
「ぅ、きも、ち、良すぎてぃやぁっ」
「まあた可愛いコト言う……」
「んッ」
 天井を仰ぎ見ながら喘いでいたその人が、悲鳴交じりにこちらを向く。大きなアーモンドアイには、分厚い涙の膜ができていた。瞬き一つした途端、涙の雫が零れてしまいそう。
 ずぐりと込み上げてきた欲に従い、今度は乳頭の窪みに爪を立てた。
「あぁッ!?」
 さらなる嬌声が聞こえたかと思うと、俺の上に座っている腰が痙攣するように震えた。凛としているはずの両目は、ぎゅっと瞑られてしまい、目尻から涙が滲んでいる。おや、これはもしかして。それとなく、視線を落とせば、先ほどよりも染みが大きくなっていた。
「……イッた?」
「ぃ、いってへ、」
「きたさん」
「……ちょっと、イッた」
「フッフ、正直なほうが可愛えわ」
「あほか……」
 本当のことなんだから、アホも何もない。
 唇を啄むと、よろよろとその人の両手が俺の頭を包んだ。俺のそれよりも、いくらか細い指が髪を潜る。何度も脱色しては色を入れているせいで、パサついている髪。前にこの人にドライヤーで乾かされたとき、「キシッキシやん」と笑われたっけ。……そのときも、今みたいに、やたらと優しく、指が絡んできた。至極大切そうに、愛おしそう、に。
「な、あつむ、」
「ん?」
「はらのおく、切なく、なってきた……」
「……ふぅん?」
「……しょうじきなほうが好きなんやろ、いじわるしな」
「いやいや、どうしてほしいかもホラッ、言うてくれへんと」
「わかるやろ」
「そこまで正直になってほしいなァ……?」
「……」
 下心を一切包み隠さずに、にんまりと口角を持ち上げた。眦なんて、意地悪く垂れていることだろう。思考が淫らなほうに傾きだしている北さんでさえ、呆れた、と口を閉ざすほど。
 頭を包んでいた両手がじわり、下がり、細やかな力で両耳を抓まれた。
「え~ん、痛い~」
「痛いわけあるか」
「フッフ、全然痛ないです」
 北さん、ほんと俺には甘いですよね。付き合いだして、歳を追うごとに俺に甘くなっている。そりゃあ、正論でぶん殴られることもなくはないが、俺も大人になっているからか、昔に比べて随分と少なくなった。
 こんなやんわりとした引っ張り方じゃ、俺は改心しませんよ。むしろ舐めてかかるかも。叱るのなら、ちゃんと叱らんと。そしたら俺も、北さんの口からどうして欲しいか聞きたいなァ、なんてワガママ取り下げます。そんで、存分に、あんたの疼き、満たしてあげますよ。
 ふにふにと、いっそマッサージを思わせる緩さで耳を引っ張られながら、ねっとりと北さんのことを見つめた。
「……、」
「ん?」
 と、その人の口が、薄く開く。唇に乗った唾液はまだ乾いておらず、ぬらりと淫靡な艶を持ちながら、赤い舌が垣間見えた。同時に、ふ、と脚が軽くなった。あれ? それまで乗っかっていた北さんの体重はどこへ?
 その人の目線がおおよそ頭二つ分高くなったところで、やっと北さんが膝立ちになったと気付いた。姿勢がかわったおかげで、ぷっくりと腫れた赤色が眼前に。やっぱり、しゃぶりたい。でも、しゃぶれない。もったいない、なあ。
「一回しか言わんから、耳穴かっぽじって、よおく聞き」
「へ」
 それまでの嬌声から、ワントーン下がった声がした。しまった、北さんこと、怒らせた? さっと胸騒ぎがするが、見上げたその人の瞳はじっとりとした熱で燻ぶっている。乾きだした唇が不快だったのか、ちろ、と舌なめずりをする様が、妙に目に焼き付いた。
「おまえの、」
「ッ!?」
 ぱ、と耳から手が離れたかと思うと、その人の両手は自らの下着に伸びる。わざとらしく、指先でゴムを引っ張って、ずりゅ、と、その履き口を引き下げた。勃起したナニの切っ先に、下着のゴムがかかる。だが、それはほんの一瞬のこと。すぐに反り返った亀頭が、ぐずぐずになった布地からふるんっと飛び出した。先っぽに絡んでいたらしい白濁は、ねっとりと糸を引く。その糸が、ぽったりとカリの上に垂れたところで、俺のほうを向いた鈴口がパクパクと物欲しげに涎を零しだした。
「おっきいコレで、」
 続いて、その人の手のひらは俺の局部をやんわりと撫でた。まだ半勃ちのはずなのに、如何わしい指先の動きに理性が焼ききれそうになる。こんな誘い方、どこで覚えたんですか。肩を揺さぶって問い詰めたいが、それ以上にこのまま好きにさせたら何をしてくれるのか、気になって仕方がない。
「俺の胎ン中、」
 かろうじて俺に届くか、というくらいのウィスパーボイスが鼓膜に染みる。その人の手は、なおも布越しに俺の性器を撫でているし、もう一方の手は自らの下腹をさすって見せた。まるで、そこに俺を呑み込むためだけの器官があるかのよう。実際にあるのは誰にでもある腸で、俺を呑み込んでくれる部分はもう少し下のほうにあるのもわかっている。
 だが、わざとらしさすら感じるその人の手つきに、理性が煽られる。ぷつ、ぷつん、と糸の一本一本が切れていく。
 最後まで、この人の欲を聞き届けるより先に、こっちの欲が破裂しそう。息を荒げながらも、口内に溜まった唾液を飲み下すと、トドメのように、濡れた唇が動いた。

 ――いっぱい抉ってや。

 ほとんど吐息も同然の音を捉えるや否や、膝立ちになっている体を押し倒した。一思いに足を開こうとするが、両膝に引っかかっている下着に邪魔をされる。ああもう、なんで中途半端に脱いだん、脱がす楽しみを取っておいてくれたって? そらどうも! ぐしょぐしょの布を剥ぐように取り去って、視界の外へと放り投げた。
 腰を浮かせつつも脚を割り開けば、きゅ、と窄まった孔が上を向く。まだ弄ってもないというのに、ひくひくと淫らに疼いていた。
 もっとよく見せろと臀部を鷲掴みにすれば、酷く滑らかになった肌が手の平に吸い付いてくる。絹を思わせる感触の奥に、熟れて熱を孕んだ媚肉が潜んでいると思うと。むしゃぶりつきたくて、涎が垂れてきそう。でも、今日はしゃぶれへん。……あれ、ここやったら舐れる? どうやろ、尻たぶはきちんと磨かれているし、顔を寄せれば、あの香りもする。何事も「ちゃんとする」が信条のこの人なら、縁のきわっきわまでケアを施していてもおかしくはない? あかん、この人がどうしていたか、一緒にいたはずなのに全然覚えてへん。しゃーないやん、いきなり風呂一緒に入ってきて、全身撫でまわされたら気も動転する。
 くそッ次は絶対、俺が手ずからこの人の体、とろっとろのふわっふわのつるっつるにしたるからな。
 歯ぎしりと同時に、ヘッドボードに置いてあるローションのボトルを引っ掴んだ。

 どこもかしこも俺のために誂えたかのような体をしたその人をたっぷりと貪った翌朝、ごそごそと高級洋菓子店の季節のフルーツゼリー詰め合わせの値段を調べたのはここだけの話。