緊急事態
オメガバース設定
運命の番ってあるやんか。
纏わりついてくる女は、どいつもこいつもそんな台詞を口にした。うち八割は、さらにこう続ける。あたし、侑とあった瞬間、絶対運命や! て思ったんやけど、侑もそうやろ。と。
正直、心底鬱陶しいと思う。
「ッあンのクソ女……、絶対痕ついとるやん」
思ったとおりのことを、「ウザい」の一言に凝縮して伝えれば、自称オメガのその女はこれでもかと顔を真っ赤にして空き教室を出ていった。俺に全身全霊の平手打ちを放ってから、というあたり抜け目ない。とはいえ、ブラウスのボタンは外れたまま。やたらとでかい乳を覆うブラジャーも上にずらした状態。その大きな脂肪の塊と、ツンと上を向いた乳首のよく見えること。俺の顔面引っ叩く前に、自分の恰好顧みたほうが良かったのでは? それとも、そんなん構っていられないほど癇に障ったということなのか。
……俺としては、むき出しのまま腕を上げないで欲しかった。どうしてって、あんな丸出しにしていたら、見るに決まっている。ガン見してしまう。振り上げられた腕に構うよりかは、オカズになりうる乳を見ていたい。要は、おっぱいに気を取られてビンタを食らってしまったのだ。ちょっとでも隠す素振りしたら、平手打ちをしようと宙を踊った腕、躱せたのに。
つーか、あいつ、その乱れた格好のまま教室出て行きよったケド、ええんかアレ。その辺の男引っかけるには丁度いいって? とんでもないビッチやな、何が運命じゃ尻軽メスブタ。ここは、んん、身も蓋もないビッチに引っかからずにすんだー、て喜んどこか。
はぁあ、と深く息を吐きだしたところで、のろのろと体を起こした。仕方がない、戻るか。午後はサボるつもりだったけれど、まんまと予定も潰れてしまった。あーあー、一発くらいやれると思ったのに。すっきりして今日の部活ができると思ったのに。ほんまあの女なんやねん、運命なんて口走るんやったら、俺に何言われても股開くくらいの献身、してみせろや。
ワイシャツのボタンを一つ一つ留め、ずるりと裾をしまった。緩めたベルトも締め直し、床に放っていた上着を拾い上げる。うわ、白ッ。さすが空き教室、掃除なんて行き届いてはいない。当然、床にあった上着は、埃やらなにやらを纏ってしまっていた。
細かなそれらを叩くようにして落とし、だらだらと袖を通す。最後に軽く髪を整えれば、身支度完了。多少の不満はあるものの、持て余すほどではない。
もし、あの女が真にオメガだったなら。……こう上手くはいかなかったのかもしれない。オメガのヒートに中てられると、俺らアルファはホイホイと平生を失ってしまうらしいから。本当、何が運命の番だ。何がオメガだ。
そんな太古の性質を持ち合わせた連中が、ほいほいといて堪るもんか。
――現代医学の進歩によるものか、生物学的な淘汰によるものなのか。世界人口に占めるオメガの割合というのは、ここ半世紀で随分と落ち込んだらしい。ああいや、オメガという性別自体はそこそこいると言っていたか。正しくは、「オメガの特性を全て持ち合わせたオメガ」の割合が、非常に低い、だ。発情期を抑え込む薬だとか、そもそも発情期自体が起きないよう「治療」してしまうだとか、そういうことがフツーになった現代じゃ、発情期のフェロモンとやらをあちこちに振りまくド淫乱はそうお目にかかれない。
仮にあの女がオメガだったとしても、そういう、オメガの性質を持ち合わせていないオメガなのだろう。真っ当に発情期が起きることはなく、ベータとほとんど変わらない生活を送っている、オメガ。そんな奴に運命を語られたところで、魅力もクソもない。
アルファ・オメガ間における運命の番も、男女の仲でいう運命の赤い糸も、同じようなもの。非現実的すぎて、いちいちロマンを感じていられない。
ハンッ。鬱憤と一緒に空気を吐き捨てたところで、教室の扉に手を掛けた。
「くっだんな」
「なにが」
「そりゃあ、運命運命ピーピー喧しいクソ豚に、」
決まってますよお。
そう、付け足しかけて、ぴたり、言葉を止めた。
え、待って、なに、え? 俺、今、誰と会話してんの。引き戸開けた途端、相槌みたいな、こっちの言葉促すような声聞こえたから、会話のキャッチボールをすべくぽーんと打ち返してはみたけれど。アレッ、エッ、なんでここに人おるん。
この空き教室は、ナイショの睦言に励むにはぴったりの場所。つまるところ、人なんてろくに来ないのだ。すぐ隣に教材室はあるものの、教師がやってくる時間は決まっている。今日の昼休みは、誰も来ないはず。来ないからこそ、あの女の誘いに乗ったのに。
「へ」
我に返ると同時に、焦点が眼前に定まった。ぎりぎり、旋毛が見える。その丸い頭は、たっぷりと光を含んで柔らかな色をしていた。その御髪の下には、凛とした大きな目が、二つ。
見覚えがあるなんてもんじゃない。
「キッ!?」
「随分と男前な顔なったな、すぐ冷やしたほうええんちゃう?」
「ヴゥヴンッッ」
「冷蔵庫の真似しても冷えへんと思うで」
そんな真似、してませんけど。いや、あんたには、深夜の冷蔵庫のヴーンという機械音に思えたのかもしれないけれど、俺はそれを意図して悲鳴を上げたわけではない。断じて。
淡々とした声がその人のモノだと認識した瞬間、しびびっと背筋が伸びた。それどころか、若干反っている。その人を視界に入れ続けたら最後、紛うことなき正しさで木っ端微塵に弾け飛んでしまいそう。天井を仰ぎ見ながら両手で顔面を覆った。手を添えたのもあって、頬の片一方の熱をまざまざと感じる。確かに、すぐ冷やした方が良いのかも。放置したら、放課後には腫れあがってそう。あのクソ女、どこにこんな力を隠していた。そんな腕力を持った女がオメガなわけあるか。オメガというのは、もっと、こう、非力なんだろう?
「こ、これには、その、わけがありまして」
「別に俺、そうなった経緯聞いてへんけど」
「……聞きたいなんてことは」
「生憎、人の色事を腹の足しにする性癖はないな」
「デスヨネー」
なんとか言い訳をしようにも、受け付けてすらもらえない。せめて聞いて。説教されるのならば、俺の言い分聞いてからにしてほしいんですけど。それに、今回はビンタされただけで、校内で不順異性交遊してませんし。……してへんよな。してへんやん、俺、一個も悪いことしてへんやんか。エッ、それやったら叱られたない。ちょっと。あの。
「北さん、俺っ!」
「じゃ、午後の授業、サボらんようにな」
「はぇ」
バッと正面に向き直れば、そこに北さんの姿はもうなかった。嘘ぉ。慌てて、その人の進行方向、隣にある教材室を見やれば、丁度鍵をさしたところ。手首を捻ると同時に、がこん、廊下に鍵の外れる音が響く。
「……なに、してはるんですか」
「昔の赤本借りに」
「あかほん?」
「おん」
呆けながら北さんの言葉を繰り返すと、慣れた様子でその人は教材室の中に入っていく。そこは教材室ではなかったのか。というか、赤本てなに。いや、わかる。わかるで。受験勉強で使うやつや。真っ赤な表紙しとるから、赤本。わかる。けど、そこは教材室で、エッ、赤本て教材室に置いてるん。
あんぐりと口を開けたまま、そろそろと北さんが入っていった部屋の中を覗き込んだ。
「うお!?」
――一面の、赤。
右を見ても左を見ても、棚と言う棚すべてが赤色に染まっている。全部、赤本。大学受験の過去問題集。ここは教材室ではなかったのか。表示的には、教材室となっている。から、でかい地図とか、資料集とか、そういうモノが置いてあるのだと思っていなのに。確かに、部屋の隅の方にはやたらと長い筒が何本も置いてある。いわゆる、教材室においてありそうなものもないわけではない。けれど、まさか、こんなにも大量の赤本が置いてあるとは。知らなかった。
「うへぇ」
「……勉強する気にでもなったん?」
「いやまったく」
恐る恐る、教材室に踏み入った。隣の空き教室と違って、埃っぽさはない。先に入った北さんがシャッと白色のカーテンを開けたが、それでも大量の埃が宙を舞っている様子はなかった。掃除、されて、いる。まあ、あっちの空き教室と違って教師もちょいちょい使っているようではあるし、最低限掃除をされていてもおかしくはない、か。
一つ、棚を覗き込めば、思いの他立派なソファとローテーブルを見つけた。古めかしいが、職員室の来客スペースにあるそれらを彷彿とさせる。もしかして、前に使っていたものかも。
それとなくソファの表面に触れた。指先に、粉塵は纏わりつかない。カーテンを開けたのもあって適度に明るい。日当たり自体、良い部屋なのだろう。冬の柔らかな日差しがソファに注いでいる。で、カーテンを閉めてしまえば誰かに見られることは、ない。
穴場やん。
「不埒なコト考えてもええけど、」
「っ不埒なんて! そんな!」
「否定するなら、顔面整えてからにせえ」
「ヴ」
声の方を振り返りながら、ぱんっと右手で顔を覆った。まんまとビンタされたところを叩いてしまう。うわ、いったぁ……。こんなところで油を売っていないで、頬を冷やしにいくべきなのかもしれない。でも、ホラ、ヨさそうなトコロを調べておくに越したことはないし。
そっと痛む頬を撫でながら、棚に手を伸ばす北さんを見やった。指先が引っかかっている背表紙、一文字目は「神」。俺の頭じゃ、到底届かない、それどころか考えもしない大学だが、北さんなら「らしいな」と思ってしまう。頭、良いしな。赤点どころか、学年上位やって、アラン君言うてたし。なんなら、試験期間入るたび、アラン君と赤木さん、北さんに泣きついとるし。
そんなとんでもない一冊を手にした指は、別の背表紙を探し始める。「神」の列からは離れたから、別の大学の赤本を探しているのだろう。
「……どこの、探してはるんですか」
「京大」
「兄弟?」
「双子ちゃうで」
「わかってますよお、……京大も、受けるんです?」
「いや。けど京大の二次試験、おもろいから」
「おも、ろい……?」
「ふ、なんやねん、そのすっとぼけ顔」
だって、試験が面白いってどういうことですか。とてもじゃないが、理解しがたい。どういう思考回路になったら、試験問題が面白いなんて発想になるのだろう。まして、京大。京大て。東大・京大て言われる、国内最高峰ですよちょっと。
ほんまに頭ええんやなあ。隣に立っているはずなのに、別世界の人間のように思えてきた。
「あ」
「んぇ?」
と、北さんは目当ての赤本を見つけたらしい。天井まで届く棚の、いちばん上。下からじゃ読みにくいが、確かに「京都」の文字が並んでいるのが見える。関西にある大学なんやから、もっと取りやすい位置においておけば良いものを。それとも、この学校から件の大学を受ける生徒、これまでいたことなかったとか?
「取れるやろか……」
俺なら届きそうやけど、北さんやとな。なんて考えていると、北さんの体がぺったりと棚にくっついた。くんっと目の位置が俺のそれと近いところにまで高くなる。それとなく足元に目を向ければ、つま先立ちになっていた。そこから、ツツツと視線を持ち上げていくと、北さんの腕がまっすぐに「京都」目掛けて伸びている。その背の、下側に、指先が触れる。
「ぐ、」
しかし、掴むには、至らない。俺よりは小さいとはいえ、北さんだって小柄ではない。平均を思えば大きいほう。それで届かないて、ほんまになんでこんな高いとこに置いたんやろ。
「……ッ」
ひく、ぴく、とふくらはぎの辺りを震わしながら、その体はピンと伸びる。それでも、本は取れません。どこかで聞いた響きだ。なんだったろう。昔、それこそ小学生の頃に聞いたような響き。誰かに言われた? おかん? それともセンセイ? あ、わかった、「それでもカブは抜けません」や。あーすっきりした。
「――ンっ、」
「ぅ」
びく、と、肩が震えた。目当ての赤本を取り出せたからではない。なんなら、肩を震わせたのは俺のほう。
妙に、その人の声が耳に残った。鼓膜のさらに奥、うずまき管だとかがある辺りがじんじんする。この感覚には覚えがある。というか、この昼休みに味わうはずだった痺れに、近い、ような。近くもないような。やっぱり、似ているような。
なんだ、これは。
「……あの」
「ん?」
気付くと、その人の背後を取っていた。
ぺ、たり。棚に貼り付いているその人と、すっかり同じ姿勢をとる。違うところと言えば、俺の体の前面は、棚ではなく北さんの背中にくっついている、というところくらい。
「っぅお」
北さんがぎりぎり届かなかった高さであっても、俺にとってはまず届く高さだ。軽く背伸びをしながら、ぴったりとその人の体に寄り添いつつ腕を伸ばせば、十分に、届く。自慢の指先は、難なく「京都」の文字を捕まえた。
手の中には赤い本。しっかりと、その背表紙を掴んでいる。一方、腕の、中には。
「ッ」
耳を、真っ赤に染めた、その人の姿。
――あかん。頭の奥、じんじんとしている部分が警鐘を鳴らす。サイレンと言ってもいい。頭が割れてしまいそうなくらいに、喧しく鳴り響いた。これはいけない。これはまずい。理性は滔々と語りかけてくる。
「きた、さん」
「っあ、つむ、なあ、赤本とれたんやったら」
「きたさん、」
「っ離れて、くれ、へん」
「北さん」
「~~ッおい、人の話、」
丸い頭が、こちらを振り返った。さらり、毛先が揺れる。……耳同様に、あるいはそれ以上に、赤く色づいた頬が、文字通りの眼前に。
すん、と。甘美な匂いが鼻孔を掠めた。
「……きす、したい」
「は」
ばさばさと紙が羽ばたく音がした。それから、床に何かがぶつかる音。
空になった俺の手は、吸い込まれるようにその人の頬へ。赤らんだソコは、打たれた自分のと同じように火照っている。俺のは外因性で、この人のはそうではないという違いはあるけれど。熱い。のは、確か。
は、そばにある唇が湿った息を吐きだした。あつむ。吐息だけで、そう呼ばれたような気もする。実際、呼ばれたのかも。ただ、音にはなりそびれたというだけで。半開きの唇、薄暗い奥は深い紅。見開かれた両目は、過分なまでの涙の膜を纏っている。一度瞬きすれば、ぽったりと雫が溢れてしまいそう。くに、触れた鼻先は、微かに汗を滲ませていた。
「待て」
「待てへん」
「ぁ」
そのあと、この人は何という音を続けようと思ったのだろう。ぱ、くん。声を漏らすソコを塞いでしまった今、その答えを聞くことはできない。
思ったとおり、北さんの口内はじっとりと熱かった。舌を捻じ込むだけで粘ついた水音が響く。こんな唾液溜め込むなんて、あんたも緊張することあるんですね。バレーも勉強も、機械的にできてしまうくせに。単に、キスの経験が浅いだけ? 北さんなら、そう、かも。
「んんッ」
強引に、腕の中の体を反転させる。真っ赤な棚に、その背中を押し付けた。その間も、唇を離すことはない。だって、離れたくなかったから。この人の濡れた熱をずっと貪りたかったから。もっと深く、もっと濃く。この人を感じたくて仕方がない。
「ンぅ……」
「っあ?」
と、胸の間に、異物を感じた。明らかに、北さんの体ではない、感触。不快感に一度唇を離せば、泡立った唾液がぽったりとその人の下唇に落ちた。外の淡い光を浴びながら、ぬらり、艶めく。一拍置いて、今度は口の端からつぅっと涎が垂れていった。顔の赤みは、いっそう増している。
「とろっとろ」
「な、にすん、」
口内に溜まった唾液を飲み下したのだろう。言葉の途中で、北さんの喉仏が上下する。すっかり乱れた顔つきの下、きちっと締められたネクタイとのアンバランスさに目がチカチカする。几帳面なまでに正された制服を引ん剥いたら、さぞ淫らなことだろう。頬に乗せていた手のひらを滑らせた。首筋をなぞり、アイロンのかかった襟首を抜け、ネクタイの結び目へ。均整の取れた三角形に指を引っかける。
「ッ侑!」
「……あー、これか、さっき邪魔やったん」
途中、北さんが胸元に抱いた四角形が目についた。真っ赤な長方形、ちょうどこちらに「神」の文字が見える。先ほど胸の間に挟まった異物はこれか。約二センチもの壁があったら、どうやったってこの人の熱も鼓動も感じられない。ネクタイを緩めていた手で、その赤を掴んだ。そのまま、おざなりに背後へ放り投げる。聞き覚えのある羽ばたきを経て、ぐしゃり、それは床にぶつかった。
「おい、なんてこと、」
「だって、じゃま」
「かといって放り投げる奴がッ、んぅ」
即座に北さんから苦言が飛んでくる。本を投げるな。ご尤も。勉学にも熱心な北さんには、今の俺の動作は理解しがたいものなのだろう。
でも、それはそれ。俺にとっては邪魔だったし、邪魔なモノを邪険に扱うのは当然のこと。ついでに言えば、北さんの意識が投げ飛ばした赤本のほうに向いてしまっているのも、癪。あんたの目の前にいるの、誰? 俺でしょう?
こっちを見ろという苛立ちも込めて、ばっくりと唇にかぶりついた。ちょうど喋りかけだったのもあって、簡単にナカを貪れる。声を発しようとヒクついていた舌を、ぢゅ、吸い上げた。たちまち、腕の中にある体が震える。薄く瞼を開ければ、文字通り眼前にある瞳はとろんと緩んでいた。両手の指先は、俺の胸元をか弱く引っ掻いてくる。ナカを弄るほどに、その人は健気に体を戦慄かせた。
いくらなんでも、感じすぎでは。キス一つでがくがくと膝が震える女、見たことがない。それこそ、自称オメガの連中だって、ここまで感じ入ることはなかった。
北さんて、何者?
「っはァ、ん……」
「ふ、きもちよさそ」
「んなわけ」
「あるやろ、欲情しきった顔で否定されても、説得力ありませんて」
「よく、じょ、」
「そ、欲情。めっちゃ助平な顔してますよ、あんた」
「うそや」
「ほんま」
この部屋に鏡があったら、見せつけることもできたのに。あ、スマホはあるな。一枚とって見せてやればいいのか。とはいえ、そのためにわざわざ端末を取り出すのも億劫。というか、そんな暇があるなら、もっとこの人のことを乱れさせたい。欲に染まったところを暴きたい。
改めて、ネクタイを解いた。ぷつ、ぷつ、と、シャツのボタンを開けていく。不思議と抵抗はされない。どころか、北さんはされるまま。あ、あ、と掠れた喘ぎを漏らしながら、寛げられていく様を眺めている。その顔つきに、期待が滲んでいるのは、錯覚ではあるまい。
そして素肌、とはいかないのがこの人だ。シャツを開けば、肌着の布地とご対面。めんど、一瞬野暮ったさが脳裏を過る。……しかし、ぴったりと体に貼り付いたソレを見ているうちに、煩わしさは彼方へと消え失せた。
「なんすか、コレ」
「ぅ、あ」
ぷく、り。その肌着を持ち上げるように、膨れた突起が二つ。肌着が白いのもあって、うっすらとピンクベージュが透けて見える。
「あッ」
勃起した乳首を布越しに捻りあげれば、びくんと体が強張った。しかも、胸を張りだす格好。もっと弄ってほしいんですか? 指先で突起を転がすと、甘ったるい嬌声が零れだす。
「ぁ、あっ、や」
「いや? 気持ち良いの間違いちゃう?」
「やぁ、やめ、」
「……おっぱい突き出しながら言われても」
「お、っぱい、ちゃうわッ」
「おっぱいですって、こ~んなぷっくり腫らして」
「ィあッ!?」
すっかり芯を持ったソコを、ぐぢり、捻り潰した。その瞬間、北さんの顔が悦楽に塗れる。腰のあたりなんて、あからさまに揺れた。達したのかもしれない。やらし、乳首抓られて達するなんて。初めて、見た。
「ぁ、あぅ、う~……」
弾くように乳首を離せば、かくん、北さんの膝から力が抜けた。ずるずると、棚を伝いながら体が崩れていく。呼吸は荒れたまま。はーっはーっと獣を思わせる吐息が鼓膜を震わす。
いや、息を荒げているのは、俺のほう? この人のことを、指先で追い立てていただけだというのに、肩で息をしてしまっている。いけない、落ち着け。浅くなっていた呼吸を、意識的に深くした。一度体内の空気を吐き出し切って、それから、ゆっくりと酸素を体内、へ。
「ッ」
「っは、はぁ、あぁ、」
ど、と、鼻に甘ったるさがこびりついた。甘さは、その人が息を吐くたびに色濃くなる。咄嗟に鼻を押さえるものの、張り付いた甘さは消えてはくれない。ガンガンと、脳幹に沁み込んでいく。まるで、女物のくどい香水のよう。しばらく前に抱いた女が、バニラのような強烈な香水をつけていて、吐きそうになったっけ。……この匂いも、そんな甘ったるさがある。なのに。
なの、に。
「な、んやねん、これっ」
「は、ぁ?」
「ッちょ、と黙っててください!?」
「だ、まってられるか、こんな好き勝手されて」
「だからッ」
その人が声を発するのに合わせて、甘さが匂い立つ。手なんかじゃ防ぎきれない。不快なはずの匂いが全身に沁み込んでくる。
呼吸はこの際仕方がないとして、説教しようと蕩けた声を荒げるのはやめてもらえませんか。じんじんと、脳髄が甘さに侵食されていく。カッとなったとか、そんな程度じゃない。甘さに、呑まれる。酒だとか、薬に呑まれる瞬間というのは、こんな感覚なのだろうか。どちらも経験したことはないし、これからも経験する予定はないけれど。
「う、うぅう」
「あつ、む、近い、」
気付くと、床に膝をついていた。その人との距離が近くなる。もとい、北さんのほうへと、引き寄せられてしまう。必然的に、匂いは強くなる。鼻が、曲がりそう。
そのくせ、本能はこの匂いを求めている。もっと浴びたいと、その人に、迫っていく。
「……さっきは」
「は?」
「もっと近かった」
「待、」
「もっと、」
北さんの体が縮こまる。はく、小さな唇が震えた。瞳に浮かんでいるのは、恐怖と、期待。半分半分。わずかに、期待のほうが色濃いだろうか。
ど、とその人の体を囲うように、両腕を棚に突き立てた。ほとんど隙間なく詰め込まれているせいか、赤本が降ってくることはない。
「きたさんに、さわり、たぃ」
「ぁ」
大きく口を開けて、手始めにその人の鼻先にかぶりつく。何度か甘噛みしているうちに、鼻を劈くような甘さが溶けていく。不快と思っていたソレが、心地の良いものに置き換わる。もっと。この心地よさを、蕩けそうな悦を、もっと。
「く、そっ……」
「ねぇ、もっと俺、あんたにさわりたい、」
欲のままに、今度は指をその人に伸ばしていく。包むようにやんわりと頭に触れてから、淡い印象のある髪に指を通した。その細い髪の毛が、さりさりと指の股を擦る。そうやって髪の間を通り抜けたら、首筋へ。
右手の指、そのうちの二本が、項の皮膚を擦った。
「ンぁッ!?」
「わ」
と、嬌声が上がった。すぐそばにいる北さんは、はくはくと空を食んでいる。突然、首を触られてびっくりした? 俺の指先、冷たかった? 突然というほど、突然ではないし、俺の指先は冷えてもいない。じゃあ、どうしてこの人は喘いだんだ? ……感じやすい、から?
一つ生唾を飲み込んでから、もう一度、首の骨、硬いところの上を擽った。
「そこ、あかん」
「ふっふ、うなじ、よわいん」
「ひゥ、ぁ」
かりかりと薄皮一枚を引っ掻くと、じんわりとその人の顔が緩んでいく。かろうじて残っていた理性が、磨り減っていくと言えばいいのだろうか。さりさり、ざりざり、指の腹だったり、爪先だったりを使って撫でるたび、北さんの唇からは甘い悲鳴が零れる。指でこうなら、舌を這わせたらどうなるのだろう。噛みつくみたいに、歯を突き立てたら、悶え狂ってしまうのでは。ぞくぞくとした欲が腹の底で蜷局を巻く。
噛んでも、良いんかな。噛みたいな。あれ、項を噛んだら、番になるんやったっけ。北さんがオメガならば、番になる? でも現代には、番を必要とするオメガ自体、ほとんどいなくなっていて、発情期が起きないオメガもいて、そんなオメガだったら番なんて成立することもなくて。ああもうわけわからんようなってきた。
そもそも、北さんがオメガとか、聞いてへんし。ベータの女とヤッたときも、無性に欲情したことある、し。今みたいな甘ったるい匂いはなかったけど、猿みたいに盛ったアレを思えば、どうということはないような。
やっぱり、よく、わからない。
ただ、この人に触りたいと言うのは間違いなくて、あわよくば抱きたいと思うのも、そのとおり。
ひとまず、ぱかりと口を開けて、鼻先を甘噛みした。
「ん、ちゅ……」
「ぅ、ン」
「ふ、きた、さん」
「ぁ、つむ……」
立ち込める匂いに負けず劣らずの、甘ったるい声が響いた。あわせて、折りたたまれていたはずの北さんの腕が、俺の首に絡む。鼻先ばかりは、嫌だ。潤んだ瞳がひしひしと訴えてくる。応えるように唇を重ねた。唇を割り開いた先は、すっかりと涎でぬかるんでいて、沼地を法羽布津とさせる。くつくつと煮立つかの熱も感じるから、沼と言うよりは鍋の中身と言ったほうがらしいのかも。
ぐずぐずと舌を交えて、唾液を絡めているうちに、いっそう体が崩れていく。棚に触れていたはずのその人の背は、いつの間にか床に触れてしまっていた。縮めるように折られていた両脚も、だらしなく伸びている。肌着の下へと手を滑りこませれば、その人はもそもそと邪魔な上着やYシャツから腕を抜いた。これは都合がいい。汗ばんだ肌を撫でるようにして肌着を捲りあげると、真っ赤に火照った肌が剥き出しに。さらに頭、腕を抜いてしまえばその人の上体を隠すものは何一つなくなる。赤らんだ肌の上で、ツンッと存在を主張する突起が目についた。熟れたようにも見えるソコは、食まれるのを今か今かと待っている。
ぽた、り。その人の皮膚に、雫が落ちた。
「はー、はー……、」
「ぁ、あぅ」
また、ぱた、り。鳩尾のあたりに、涎が垂れる。呼気と一緒に零れた唾液が、その人の皮膚に落ちていった。まるで、餌を前に「待て」を言いつけられている犬のよう。そういえば、この人に何回か「待て」と言われたような気がする。どれもこれも、待てないと拒んでカッ食らってしまっていたけれど。じゃあ、今も待たなくて良いか。食べたいように、しゃぶりついたって、良いような気がしてきた。
熱を孕みつつも滑らかな肌に、噛み痕を残したい。ぢゅっと吸い付いて、鬱血痕を残すものもイイ。刺激を今か今かと待ち望んでいる乳首にだって、むしゃぶりつかなくては。
その人の胸元に顔を寄せた。丸く膨れたソコ。ほんの数分間に、捻り潰したほう。ぐちりと芯を潰したはずなのに、すっかり丸く腫れている。ふ、吐息を掛けると、頭上から切ない喘ぎが聞こえてきた。ついでに、乳首が一回り膨れてように思える。乳輪ごと、ふっくらと勃ってきたのかも。
腫れたところ、まるっと口内に入れるべく、大きく口を開いた
「はよお、さわってぇ……」
タイミングよく、「待て」も解除される。今は別に「待て」を言いつけられてはいなかった? まあどっちだっていい。北さんが、触ってくれと強請ってきた事実さえあれば。これで、俺の完全なる好き勝手ではなくなるんだから。
ぱくん、と。腫れあがった媚肉にかぶりついた。
「~~あっ」
組み敷いた体が上下に跳ねる。下腹の上に座っているのもあって、尻越しにビクビクとナニが震える感触まで伝ってきた。じゅるじゅると乳首を吸うたびに、その人の局部が妄りに揺れる。下着の中は、さぞドロドロに濡れてしまっていることだろう。北さんが、自分で漏らした精液で下着を濡らしている。そう思うと、いっそう熱が滾ってくる。前が苦しくなってくる。
熱を持ち出したソコを、その人の下腹に押し付けた。
「ひぁッ」
「ん、ぢゅ……」
「ぁ、つむ、あつむっ、なあ、」
「ぅ?」
わざとらしい水音を立てながらも乳首を甘噛みしていると、北さんの手が俺の頭に触れた。髪を潜るように指先が絡んでくる。俺の頭を胸に押し付けているふうでもあって、もっと激しく、と強請られているかのよう。じゃあ期待には応えないと。べろんと硬くなった乳首に舌を這わせた。たっぷりと唾液を乗せたら、今度は突起を潰すように舌を押し付ける。ころころと、飴玉を転がすように愛撫を重ねていれば、北さんは震えを伴わせながら胸を仰け反らせた。
そっと嬲ってないほうの突起を盗み見れば、天井に向かって必死に勃ち上がっている。これだけ膨れてしまったら、ニップルリングが映えそうだ。ミスター隙無しの肌着を剥いたら、やらしいシルバーが乳首を絞めつけているなんて。考えただけでも、劣情を煽られる。
ちゅぷっと吸い上げながら突起から口を離した。わずかに上体を起こすと、恍惚に染まった顔が見える。体が離れるのに合わせて、俺の頭に乗っていた北さんの手は、すとんと自身へと落ちていった。かろうじてと割れている腹部の上。仰向けなのもあって、あばらも浮いて見えるけれど、極端に細くも、太くもない、よくある男の体だ。そのくせ、剥き出しになった肌は、とにかく滑らか。産毛すら生えていないのでは。筋肉の削げ始めたソコをつぅ、っと指先でなぞった。
「はぁっ、あ、……ぁー、」
薄皮一枚を擦られる感触にすら、その人は悶絶する。開けっ放しになった口からは零れるのは、ほとんと喘ぎと涎だけ。透明な筋を口の端から零しながら、うっとりとした目線を俺に向けてくる。まずは指先、手、手首と辿って、体のほうへ。ごくんと唾を飲みこむと、真似するように北さんも喉仏を上下させた。それから、ゆっくりと視線は下へと下がっていき、……ぱつん、とテントを張った股間に辿り着く。
「お」
「ん、ぅ」
気になるのだろう、緩慢な動きでその人の腕が伸びてきた。両手の指先が、ふわり、俺の張り詰めた局部に触れる。布越しで、指にもろくに力が入っていない。微かすぎる感触に、じれったさが込み上げてきた。いっそのこと、握り込んでくれたらいいのに。
「……きになります?」
「きに、なる」
一つ尋ねると、左手の指先がじんわりと沈んできた。一方右手はというと、しれっとファスナーの金具を抓む。とろとろになっていても、どうすれば寛ぐのかは覚えているらしい。
じ、じじ、と、金具がひき下ろされていく。ほんの少しだけ、自身を囲っていた狭苦しさが和らいで、いく。
一方で、金具の一つ一つがほどけるたびに、理性の糸は、ぷつ、ぷつと解れていく。このまま、ブッツリと切れてしまうまで、あとどれくらい? あれこれと思考を巡らせることができるのだから、まだ余裕と思っていいのだろうか。限界、と思ったところは限界じゃない。やってみたら、案外耐えられたりする。そういうゆとりが、俺の理性に、あるのか、否か。
「これ……、ほしい」
「ッ!」
カッと、頭の奥が焼けた。
あかんわ、これ。ゆとり、あったかもしれへんけど、今、ぜぇ~んぶ吹っ飛んだ。
衝動的に、その人の腰に手を滑らせる。強引にベルトを外し、その体に触れている布、すべてを引っ掴んだ。突如俺が膝立ちになったということもあり、北さんの手はぽと、と俺から離れてしまう。ア、なんて切ない声が鼓膜に届いた。けれど、構ってはいられない。構うだけの、余裕がない。
「ンぁっ」
勢いをつけて、制服のスラックスと、ぐずぐずに濡れているだろう下着をまとめて引き下げた。
「ぁれ……」
「ぁ、あ……、すぅすぅすりゅ……」
ふるん、と飛び出たのは、緩く勃起したペニス。黒ずんではおらず、ほとんど肌と同じ色。しいて肌色らしくないところを上げるとすれば、皮から顔を覗かせる亀頭くらい。真っ赤に充血して、切っ先にある窪みから、ひっきりなしに透明な液体を溢れさせている。
ぐしょぐしょ。びしゃびしゃ。これでもかと、濡れそぼっている。それは、間違いない。陰茎はぬらぬらと艶を纏っているし、かろうじて生えている茂みもしっとりと濡れていた。なんなら、太ももだって、滑りを帯びている。
しかし、違和感。
「んん?」
色味がない。あまりにもない。肌色が、見えすぎている。巻き散らしている体液、すべてが透明なのだ。おかしい。何度か達したと思ったのに。精液は、どうした。なぜ、白くない。
まさか、全部寸止めで終わっていたとでも? 投げ出された北さんの両脚の間に腰を下ろしつつ、とろとろと涎を垂らす性器を握り込んだ。
「ヴんんッ」
「きたさん、イッてへんの?」
「あ、やッ、ヒ」
寸止めが続いているのなら、痛いくらいに反り返っていそうなものだが。握ったその人の陰茎は、芯こそあるものの、俺のソレに比べて随分と柔らかい。逆にギリギリの状況が続き過ぎて、上手く勃起できなくなったとでも? そんなこと、あるのだろうか。あいにく俺は、早漏なんて性分はない。フツーしたって、それなりに保つ。相手が善がって達したな、て後に吐き出すことが多い。射精を我慢したことなどないのだ。セックスでそうなのだから、自慰でも変な限界突破を試みたことはない。我慢したらどうなるか、そんなの知る由もない。
実際、そんなコトをしたらどうなるのだろう。寸止めを繰り返してたら、ちんこは一体どうなってしまうのか。爆発するか、あるいはバカになってしまう、とか? 勃起の仕方がわからなくなって、ふにゃふにゃなって、でも、達する寸前までは何度も味わっているから、直接刺激を与えられたら堪らなく気持ちが良い、とか。
「あ、ァッ、あ、」
まさに、今の北さん、みたいに。
イキたいのに、イケへんて、苦しいでしょ。とりあえず、一発イッときましょ。ぼんやりと熱で浮かされながらも、ひとまずその人の精を吐き出させることを最優先事項に位置付ける。凝って裏筋を弄ったり、亀頭を撫で回したりはしない。単純な、上下運動。ごしごしと、竿を扱く。けれど、ここまで感度が上がっているなら十分な刺激のはず。
……予想通り、北さんの腰がカクカクと揺れ出した。もうそろそろだろうか。熟れた亀頭からは、過分なくらいにカウパーが溢れてくる。
「ッ」
手の中で、陰茎が震えた。空中に向かって、がくんと腰が突き上げられる。くぱっ、と、尿道口か、僅かに広がった。
「っ~~ンン♡」
「え」
そして、射精。
と、なると思ったのだが。
……切っ先からは、白い液体が吐き出されることはなかった。代わりに、ブシュッとカウパーが噴き出す。いや、これは潮? どちらであるのか、区別はできない。ドクドクと何度かに分けて吐き出されたそれは、どこまでも透明で、さらりとしていた。
「ぁん、んく、……ぅん」
「すご、びっしょびしょや」
「も、いじわる、やめてぇ……」
扱いていた手のひらは、その透明な体液でぐずぐずに濡れている。それなりにベタつく感触はあるが、精液のようなどろりと纏わりつく感触はない。ついでに、独特の臭いもしないときた。
改めて陰茎を見やれば、そこはくったりと萎れている。ぽったりと垂れた先っぽからは、残滓がぽたぽたと滴っていた。ということは、だ。今のが射精? でも、精液は出てない。精を出さなくても、射精と呼べるのだろうか。
手の感触を確かめながらその人の痴態を見下ろしていると、もぞり、居心地が悪そうに腰が揺れた。それから、緩く伸びていた足が折りたたまれる。両膝は胸のほうへ。すぐに、その折り曲がったところに、その人は手を引っかけた。
「おわ」
「っは、ぁ、ン」
手の支えを使って、大きく股が開かれた。腰も浮いていて、すっかり局部が日の目を浴びる。ぷるぷると揺れる竿と睾丸、つるんとした会陰。それに、濡れそぼった後孔。
「えっろお」
「ぅん」
縦に筋の入ったそこは、ぱっと見、女のソレと相違ない。ビラビラがついていない分、グロさは幾分控えめ。愛液を滲ませながらヒクつかせているあたり、ソコが持つ機能はまさしく同じなのだろう。
この人が、オメガだというのなら。尻穴が濡れたって、何も不思議ではない。北さん、今、発情期なんやなあ。つか、発情期あるタイプのオメガなんか。発情期の時って、アルファ誘うフェロモン出すって言いますけど、俺全然気付きませんでした。それとも、部活やってる最中は、起きないように、起きても軽く済むように、色々やってたんかなあ。そんで、引退したしって気抜いてはったら、俺と居合わせて、きちゃった、とか。……どうやろ、北さんなら、受験終わるまでかっちりコントロールしそうなもんやけど。
まあ、今、目の前のこの人がアナルをぐずぐずに濡らして、俺のナニを欲しがっているのは確か。
意識を明後日から連れ戻すと、急かすように、小ぶりな尻が揺れていた。割れ目はひっきりなしに震えて、縁をぬらぬらと光らせている。一切触れてないのに、こんなにも濡れるなんて。スケベすぎちゃう? ソコをじっと見つめたまま、自身の前を寛げた。
「あ」
ぶるん、と顔を出したソレは、グロテスクなくらいに腫れあがっていた。俺の逸物はこんなにも大きくなったのか。我が身のことながら、感心しそうになる。脚や腹よりも浅黒い皮膚、びきびきと表面に浮かぶ血管。ビッチがこぞって好むカリ高ちんぽ。まんことの相性が良いのは知っているるが、尻穴だとどうなのだろう。突っ込む側としては、ガバガバじゃなければなんだっていいのだけれど。
それとなく北さんの顔に視線を向けると、恍惚としながら俺の逸物を見つめていた。……めちゃめちゃ期待してますやん。キュンッてアナル窄みましたよ今。つか、物欲しげに窄まったり緩んだりしている。
捻じ込み、たい。
「は、やく、」
「……はぁい」
二、三回ばかり擦ってから、切っ先を後孔にあてがった。先走りで濡れた亀頭と、愛液まみれのアナルとで、淫靡な水音を立てる。まったく解していないが、入るものだろうか。頭を躊躇が過るが、腰を推し進めればその分陰茎は腹に飲まれていく。めりめりと縁を拡げながら、奥へと押し入っていく。
「ぁァン」
いちばん太いところを超えてなお、北さんが痛がる様子はない。きゅうきゅうとした締め付けがちょうどいい。俺のために誂えられたかのよう。北さんからしたら、俺のナニは自分のために準備された棒に思えていたりして。意識的に息を吸って、吐いて、また、ずぶずぶと竿を埋めていく。
「ぁ、すごぃ、ぁ、あっ」
「あ~……、あ、かん、なンこれ、やっば、」
半分咥え込ませても、まだ余裕はあるらしい。もしかして、根元まで入れることもできるかも。それで足りないと言われたらどうしよう。真上から圧をかければ、あるいは? いやいや、俺の、結構張り詰めていたし、十分な大きさであると信じたい。
「あつむ、」
「ん?」
「も、っと」
「……ぅん」
抱えられていたはずの北さんの脚が、俺の腰に絡んだ。深いところまで満たせと、引き寄せられる。急かさなくたって、入れられる分はちゃんと突っ込みますって。でも、勢いに任せて捻じ込んだら、ヨすぎて達しかねない。誰って、俺が。折角、とろとろの北さんとセックスしてんのに、早漏で終わりたくはない。なんなら、この心地よさを延々と味わっていたい。
ぬるつく腸に、ナカに、ぐずり、じゅぶり、埋めていく。
そのうちに、切っ先がむちゅぅっと壁にぶつかった。ここが、最奥だろうか。根元まで入り切るまで、ほんの二センチ。うーん、これくらいなら、強引に捻じ込んでしまえる? きゅっと俺を絞めつけてくれる縁を撫でてから、北さんの顔を見やった。……焦点が、怪しい。ベロまではみ出ている。トんでしまった? そんな懸念が浮かぶ。けれど、ナカはしっかりと俺を絞めつけてくれている。奥はちゅぶぢゅぶと強請ってくるし、竿は絞るように絡んでくる。理性だけ、手放したというのが、相応しいのかも。
「きたさん……?」
「ぅ、あ」
試しにと、頬を軽く叩いた。名前を呼びながらそうしていると、虚ろだった瞳が俺を捉える。口は今なお半開き。そんな唾液でべとべとになっている唇が、わずかに震えた。あ、つむ、なんて口の動きに見えたのは、俺の錯覚? 音になったのは、舌足らずな母音だけだったらか、答え合わせはできない。
「ぁ、あ~、ぅ」
「ね、きたさん」
「ぅ、う?」
「もうちょい、いれてもええ?」
「ぃれ……?」
「うん、もうちょっとやねん」
全部入るまで。くちゅくちゅと切っ先で最奥を擦りながら強請ると、北さんの口から、オだのウだの、喘ぎが零れだす。とにかく気持ちよさそうだ、これなら、抉るみたいに亀頭をハメ込んでも、善がってくれる気がする。
許可を待たずに、ず、ヌ、腰を押し付けた。
「ぁ、ぅ、ヴッ」
「ゥ」
「ヒ、ぁ、ふかぃ、ぁっ、」
「も、ちょい……」
「ア゛ッ」
少しずつ圧をかけてはいるものの、ナカは思うように受け止めてはくれない。一思いに突き立てないと、入らないのかも。無体を働いてしまおうか。でも、腹裂けたら、どうしよ。二センチに満たないくらいなら、耐えられないだろうか。そもそも、俺の逸物をほとんど抵抗なく咥え込んだのだ、多少強引にやったって、平気なのでは? そうだ、そうに違いない。そう、信じることに、しよう。
ふにゃ、と、自身の口元をだらしなく緩ませた。
「きたさん」
「ん、ヴ」
「ごめんなあ」
「ぁ、らに……ッ、」
先手で一つ謝ってから、入れ込んでいたナニを半分ほど引き抜いた。ずろろろっと媚肉がついてくる。抜ける勢いで、ぷっくりと縁が捲れかけた。真っ赤な粘膜が垣間見えたから、捲れた、と言っても過言ではないのかも。
体内を擦られる悦に、北さんの顔がどろりと崩れた。かといって、その余韻に浸らせてもやれないのだが。
一つ息を吸い込んで、――張り詰めた怒張を蜜壺の奥深くへと捻じ込んだ。
「ヒぎュッ!?」
ばちゅん、と、肉のぶつかる音がした。それとほぼ同時に、亀頭は最奥に辿り着く。粘膜同士が、ぴったりとくっついた。くっつくどころか、これは吸われているのでは。ぢゅぅうう、と熱を絞られる。精を、貪ら、れる。
「ぁァ、あッ」
「ッヴぇ、ぁやば、」
下腹を力ませるが、もう遅い。
「~~ッッ♡」
ひときわキツイ絞め付けと同時に、どっぷりと精液を吐き出していた。目の奥では、チカチカと白い光が飛んでいる。長い、射精感。どく、どくんと何度かに分けて欲が吐き出されていく。その間、襞が緩むことはない。一滴も残らず搾り取らんと、ぴったりと纏わりついてくる。この淫乱ッ。叫び飛ばしてしまいたいが、この人のことだ、発情期の習性と性的嗜好を一緒にするなと袈裟切りにされてしまう。口内に溜まった唾液を飲み下すのに合わせて、衝動を腹の中へとしまい込んだ。
「あ、あぁ、なか、ドクドクし、て……?」
「ぅ、あれ、」
ふと、善がっていたその人の顔に、疑問符が過った。そのクエスチョンマークは、俺にも浮かぶ。
なぜ、まだ、射精が続いているのだろう。脈打つのに合わせながら、とぷ、とぷんとナカに体液を吐き出し続けている。何度かに分けて出てくる、ということはあるが、ここまで出続けるとは何事だ。いつもなら、とっくに出し切って、萎えている頃合い。
なのに今日は、まだどくどくと精を吐き出している。北さんのナカを、ぎゅうぎゅうに満たしている。
どういうことだ。なんだか、嫌な予感がする。ぞくぞくと性欲は熱を滾らせているが、このままナカにハメていてはまずい気が、する。一旦、抜かないと。手遅れになる前に、抜いてしまわなければ。
肩で息をしながら、ぐ、腰を退いた。
退こうと、した。
「ぁ、嘘やろ、ぬけへん、」
「ぉ、ほぅグ、ぅ、え?」
ミヂと、付け根に肉が食い込んだ。北さんの口から、空気の塊が這い出る音がする。ハッとなって繋がっている部分に目を向ければ、ぎちぎちと縁が根元に噛みついていた。
もとい、俺の、陰茎の、付け根が。……ぼこんと膨らんで、いる。
なんやったっけ、これ。昔、保健体育で教わった。教えられた。でも、アルファ現代人がソレを発現することは稀有で、ほとんど多くがソレを目の当たりにすることなく一生を終えるって、あのアルファ教師は言っていた。実際、今の今まで、俺は見たことがない。そりゃそうだ、オメガの発情期に中てられたことはないし、自分以外のアルファが発情期のオメガとセックスしているところだって見たことはない。AVがあるだろって? あんなファンタジー、今時誰が信じると。第一、発情オメガのヌカサン種付け交尾、なんてタイトルがついていたとしても、モザイクでちんこは見えないし。
とにかく、俺は、見たことがなかった。こんな、亀頭球と呼ばれる、陰茎の根元にできる瘤なんて。
「や、らめ、おしりひろがっちゃ」
「う、ぅう~」
長すぎる射精感のせいか、頭にも血が集まってきた。目頭が熱くなる。溜まってきた涙で、視界が歪んだ。依然として、切っ先からは体液が流れ出る感触がする。腹に力を入れようとも、ソレの流れを止めることはできない。どころか、根元の瘤が強張らせてしまう。硬くなったそれのせいで、北さんの口から悲鳴が飛び出した。それ以上、尻穴を拡げないでくれ。そう訴えようと、声が裏返る。……これを、嬌声と思ってはいけない。だめだ、違う。あくまで悲鳴であって、善がってはいない。
いっそのこと、この瘤を押し込んでしまったほうが楽になれるのでは。ぼやぼやと熱に浮かされた思考は、なんとか打開策を探す。それが、本当に打開策になりうるのか、確認もせずに体が動き出す。
退こうとしていた腰を、ぐずり、押し付けた。
「んヴッ!?」
「ぉ、わ、わっ、わ!」
すると、きつく食い込んだ縁からブヂュッと体液が漏れた。白色を帯びたソレは、飛沫となってその人の太ももを汚す。もう、胎の中は俺のナニと精液でいっぱいなのだろう。それでも、言うことを聞かないムスコは萎えることなく精を巻き散らしている。……平らだったはずのその人の下腹が、微かに膨れてきたように見えるのは、気のせい? 気のせいだと思いたいが、ぷぢゅ、ぴちゅっと結合部から精液が溢れてきているのを思うと、紛れもない現実にも思えてくる。
「も、やぁ、はらくるし」
「でも、抜けへんし、」
「あヒッ」
「ぅ、うぅう」
「ぁ、あッ、ア」
滲んだ視界の向こうにある顔も、涙と鼻水で酷く汚れている。無理に瘤まで押し込むのは、失敗だった。……微かにでも、冷静さがあったら、そう判断できたろう。しかし、頭は「抜けないなら押し込むしかない」の理解を変えられない。
ごちゅっと、亀頭が内壁を抉った。体液で満ちた粘膜は、その熱にぢゅぅうと吸い付いてくる。達したばかり切っ先は、言うまでもなく敏感だ。撫でまわすかのように吸い付かれてしまえば、ふつふつと次の熱が押し寄せてくる。
「ぁ、また、またイッぢゃぅっ」
「あかん、おれも、」
我慢なんて、できるものか。
込み上げてきた愛欲で、いっそう肉棒は張り詰めた。
「ヴグ、」
「~~ッッ♡」
遠くから、チャイムの音が聞こえた。けれど、いきり立った自身はまだ冷静さを取り戻さない。二度も達したはずなのに。どういうことだろう。腫れあがった根元は、いくらか萎んだようだが、まだ栓としての役割は十分果たしている。まだ、蹂躙したりない。この体を貪りたい。そう、本能が訴えてくる。……組み敷かれているこの人も、どうやら同じらしい。ぐちゃぐちゃの顔に悦を浮かべながら、脚を絡めてきた。
もう、一回。一回だけ? じゃあ二回。三回。やれるのならば、何度でも。
改めて奥を穿つと同時に唇を重ねると、風前の灯火と化していた理性は、ついに途絶えた。
――その後のことは、よく覚えてない。
◇◆◇◆
目覚めると病院にいた。あの人の姿は何処にもない。代わりに、明らかに泣いた後という顔をした母親と神妙な顔をした顧問が病室の中にいた。あ、まずい。俺、やらかした。瞬時に理解するものの、具体的に「ナニ」をやらかしたのかまではピンとこない。う、と顔を歪めると、一つため息を吐いてから、顧問が口火を切った。
「あれは事故やった。それに間違いはない」
そして聞かされた事の顛末に、流石の自分も頭を抱えざるを得なかった。完全に制御されていたオメガとしての発情期を、偶然にも俺が引き出してしまったなんて。引き出せるくらいに――俗に、運命の番と呼ばれるほどに――あの人のオメガ性と俺のアルファ性の相性が、良かったなんて。
――運命とやらは、存外、そばにあるものらしい。