九
しばらく前に貰って、持て余しているものがある。
某ゲームのマスコット的キャラクターをつけたそれを、何の気なしに宙に放り投げた。間もなく手の中に落ちてきて、カチャリ、金属音を鳴らす。
指先を緩く開けば、銀色と間抜けな猫が笑っていた。
「どうすっかな……」
鈍く輝く鍵は、決して自宅の物ではない。恋人の、「御幸一也」の家の鍵だ。二か月ほど前、いつでも来てと言って渡してきた。
けれど、その合鍵を使ったのは、わずかに一回。そりゃそうだ、一月は自主トレで家を空けていたし、今月はキャンプで留守にしている。あいつのいない家に、どうして自分が行く必要があるんだ。
ため息を吐いて、一度使った日を思い出した。
あいつが、自主トレから帰ってきたときのことだ。何時の便で帰ってくるかも聞いておいたから、「おかえり」を言えるよう先回りして使ってやった。
そしてどうなったかというと。
俺の面を見た瞬間、居間の扉を閉めた。ちょっとショックだった。言わないけど。
おそらく動揺のせいだ。意を決して、扉を開いたあいつの顔は、これでもかと真っ赤になって、嬉しさを滲ませていたのだから。
好かれてんだな、思ったよりもずっと、俺はあいつに好かれている。
似たタイミングで鍵を使うとすれば、次は御幸がキャンプから帰ってくるときだ。今度は何をしてやったらいいだろう。少し驚いて、それから喜ぶこととは。
不意打ちのキスはもうした。おかえりと言う際、唇を歪ませるだけのキスをくれてやったのだ。今思うと新婚夫婦みたいだな。うわっ恥ずかしい。
単純に、関係を進展させてしまえば良いと思う面もある。人間で、男である限り欲は溜まるのだし。溜め込むよりは発散させた方が体にも良いし。
かといって、無理にそれを求めたくもない。俺ばっか盛ってるみたいじゃん。あいつからシたいと言ってくるとか、顔一面にヤりたいと浮かべるとか、そういうときに応じる程度で済ませたい。
――実にひねくれた発想。その癖、受け入れる準備をしている自分の気持ち悪いこと。
「ぁああクッソ」
悪態を吐き捨てて、叩くように鍵をサイドボードに置いた。それからベッドに倒れ込み、ぎゅうっと目をつぶる。
俺はいつか、あいつとセックスするのだろうか。
年明けに泊ったときも、自主トレ帰りの日に泊まったときも、あいつは手を出してこなかった。ただ、同じベッドに入って抱きしめながら眠るだけ。
お前、性欲ないのかよ。その年で勃起不全とか言う?
単に俺には勃たないというのなら――それはそれでダメージ食うけど――そういうものだと割り切ろう。だが、時折、俺を見つめる目に熱を灯す。それは明らかに欲情の色。
ヤりたくないわけはない。けれど勃たない。意味分かんねえわ。
ぐるぐると頭を悩ませたって、答えは出てこない。
そうして今日もまた、思考停止。ヤれる準備だけ進めように落ち着いてしまう。まあつまり、自慰に耽ってしまうのだ。
自嘲しながら、右手の中指を口に咥えた。ねっとりと唾液を絡ませて、存分に濡らす。ローション出せばいいんだろうけど、あれは洗濯物が増える。いただけない。
まあ、なんとかなるだろ。むしろ経験から、何とかなると分かっている。
ぬるりと唾液を絡ませたところで、右手をスウェットの中に潜り込ませた。
「ん、」
つぷりと指先を埋めるのも、すっかり慣れたもんだ。相変わらず違和感はあれど、内臓を押し上げるかの不快感はほぼない。
もはや、後ろを弄るのにはまってしまったに近い気もしてくる。男の沽券に係わるから、それについてはまだ見ないふりをしておきたいところ。
目を瞑ったまま、さらに指を入れていく。輪を描くようにしながら押し込めば、あっという間に根元まで飲み込んだ。指一本分、広がったアナルはきゅんきゅん痙攣を繰り返すし、腸壁は押し出そうと蠢きだす。
「っはぁ、んぅ……」
たったそれだけで、うっすらと快感が広がる。
俗っぽい言い方だが、アナニーを初めてもうすぐ二か月、体の変化は予想以上に早かった。
何度か挿入出を繰り返し、解れたところで指を増やす。ばらばらと動かしながら腸壁を擦り、前立腺を撫でつけた。一番感じるというソコは、まだ痛みの方が強い。
それでも、前立腺を刺激していれば、自然と前は勃起していく。体の構造のせいだと思いたいが、痛みと快感を結び付けていたらどうしよう。
俺はマゾじゃない。そう信じてるし、これからもそうであってもらいたい。痛みが気持ちよくて勃起するとか、変態臭いじゃんか。
大分前が苦しくなってきたところで、一度指を抜き、スウェットを脱ぎ捨てた。反りかえった息子は、仕事で疲れてようとも元気なもんだ。
先走りで滑り始めたそれを左手で包み、右手はもう一度後ろに当てる。くぷり、指先を入れると同時に、鈴口に爪を引っ掛けた。
「くぅ……、ぅあ、ぁ」
下半身に与える刺激に集中しつつ、他にいじれるところはないかと思考を巡らす。感じれる部位はあるに越したことはない。だってヤってて感じやすい子の方がグッとくるじゃん。
いや、でも待てよ、俺とあいつ好み違うんだったよな。それだと、快感に呑まれるまでが長い方が良いのか。
指の抜き差しを加速させながら、少し痛いくらいに竿を擦る。あれ、やっぱ痛いんじゃねえか。
でもこれくらいの力で擦るのが気持ちいい。結局マゾ入ってんのかよ、クソが。
「ふっ、つぅ……、ィあ、」
じゃあこれからどうしよう。下手に違うと思い込むより、開き直ってしまった方が気は楽。
新たな性癖を発見したところで、開発がてら自分の体を痛みつけてみるか。切るとか叩くとか、流血沙汰はごめんだが、指よりも圧迫感のある物を挿入してみたい。指二本でも余裕も出てきたことだし、最終的にちんぽ突っ込まれるなら拡張しといてもいいだろ。
ぐぱあっと口を広げながら、部屋を見渡した。
冷蔵庫の中にはごぼうとかにんじんとか入ってるけど、食い物をケツに突っ込みたくない。似た意味で、調理器具もパス。お玉とかフライ返しとか突き立てたってギャグでしかねえよ。
他に何がある、視線をゆっくり走らせ、作業台を兼ねたローテーブルに辿り着いた。タブレットと手帳、それからペン立てが乗っている。
つぷりと指を抜き、緩慢な動きでベッドから降りた。蕩けた下半身では、二足歩行は難しい。四つん這いで、テーブルのそばまで移動した。
――手に取ったのは、一本の筆ペン。
「ッヒャハ、ほんとに変態だな……」
社会人になったのなら、一本くらい持っておいても損はないだろう。そんな憶測で買ったまま、一度も使用されていない筆ペンだ。太さは親指ほどだろうか。長さはおおよそ二十センチ弱。拡張するには細すぎるが、指では届かないところを刺激できる、かもしれない。
異物挿入だなんて、どこのAVだよ。ケッと笑い飛ばして、ペンの尻をアナルに当てた。冬場のフローリングは冷たいが、火照った体には悪くない。ベッドに戻るのも面倒だし、このままここでヤっちまおう。
くぷりと、ペンを中に押し込んだ。
「つっめてっ!?」
十八度という大変エコな設定温度で暖房を点けてはいるが、冬の空気で冷えたものまで温めてはくれなかったらしい。
指とは明らかに異質、無機質な冷たさを纏ったそれに、大きく体が震えた。体温くらいまで温めずにローションを使ったのに近い。
ピリピリとした冷たさがアナル越しに伝わる。唯一の救いは、言うほど硬さを感じないということだろう。このままペンが温まるのを待つか、一思いに突き刺してしまうか。
そんなの決まってる。
「ぁっは、んゥ……、ひぃあッ」
吐き出そうする腸の動きに反し、ずぷずぷと筆ペンを押し込んでいった。
腸壁をする部分は冷たいが、徐々に慣れてくる。代わりに自分の体の熱を感じて、皮膚がかっかと火を噴いた。異物感に鳥肌立ってるのにな。
「ん、っつァ!?」
思い出したように前に触れれば、陰茎の先がフローリングに擦れた。しかも丁度溝になってるところ。やばい、これはやばい。床オナまでしちまうのかよ、そこまでの変態には至りたくない。
けれど、体は正直なもの。尿道口を擦るのが堪らなくイイのもあって、ペンを飲み込ませながらも、先を床に擦り付けてしまう。
「うあ、やべぇ、っての……、」
せめて床に擦りつけるのはやめないと。勝手に動きそうな腰に叱咤を打ち、四つん這いから横向きに寝転がった。
脚に触れるフローリングが冷たくて気持ちいい。竿を上下に擦る動きに変えながら、押し寄せてくる快感の波に浸った。
ふと、ペンがつっかえる。
「っへ、」
慌てて右手をアナルにあてがえば、すぐに頭だけ出しているキャップを捉えた。凸凹とした表面が、収縮を繰り返す入口に食い込んでいる。
腸なのだし、どこまでも奥に刺さるものかと思ったが、そうではないらしい。
ぼんやりとした頭で教科書を思い出せば、たしかに腸は真っ直ぐじゃない。どこかしらで折れ曲がっている、はず。ペンの長さからしても、これ以上入れては危険だろう。
そう、思いはするのだが。
「ぃっつぅ……、んっ、」
ゆっくりとしたテンポで、ペン先を押し込んでしまう。
ぐいっと奥が押さえつけられると苦しい。だが、耐えられないものではなく、癖になりそうな刺激。
突かれるのは痛いし、内臓を押し上げられる不快感もある。それでも、ねじ込んで奥を押すのを、止められない。
「ァ、ひぁっ、あんっ……、ぅあ!」
確かに痛い。
――なのに気持ちいい。
しぱしぱと目の前に白い光が飛んだ。これは本格的にまずいやつではなかろうか。初めての異物挿入で達するとか笑い話にもならない。
雄としての本能で指の動きを止め、前を擦るのに意識を向けた。
まだ、まだ後ろでイく境地に踏み入りたくない。だってあいつに抱かれてすらいないのに。抱かれるかも微妙なラインなのに。この体ばかり、狂っていく。
それこそ、あいつに飽きられたときどうすんだよ。女を抱けないとか、男として終わってるだろ。
気を抜けばまたペンで奥を突きそうになる。どうにか抑え込んで、竿を擦り、そちらに手が行かないよう睾丸をぐにゅりと揉んだ。
「はァっ……、んぅ、」
口から零れ落ちるのは悉く掠れた声。でも喘ぎになっていないだけマシなほうだ。
これが本物の嬌声になってしまったら。いくらなんでもひかれるだろ、ドン引き。それこそ、目一杯喘がれるよりも堪えるのが好きな質だ。余計にAV女優さながら鳴いては行けない。
引き攣る喉で声を塞き止めると、局部にどっと熱が集中した。反射で、後ろを締め付けてしまう。
「ヒぁ、ア、~~っぁぁあ……っ」
イイ、んだよなあ。
一瞬、体が浮遊する錯覚に陥って、手の中を白濁で濡らした。
「ぁあ、ヒャハハ……、まーじでクソだろ」
ぼやくように零せば、だるさが襲ってくる。
同時に頭がクリアになるから、後ろで達したわけでもないらしい。なんでもそっちでイくと、しばらく快感の波から解放されないそうだから。
そっちでイくのも時間の問題な気もするが、まだ先だと思っていたい。そうであってもらいたい。
ため息を吐いて、後ろからペンを抜き出した。たったそれだけで体が打ち震えたのには、自嘲するしかない。
付き合って、なんでもない泊まりをして、キスをして、舌も絡めあったとなれば。
次は間違いなく、セックスなのだろう。
もう、こっちの腹は括りきった。いつでもきやがれ。
***
空港に着くのが午後八時五十分。家に着くには、それから一時間くらいかかる。ついでに、飯は済ませてくるとのことで、用意はしなくていい。
現在時刻、午後八時十二分。会社から最寄り駅まで来たところでこの時間だ。あいつが帰ってくるのに、充分間に合う。
ポケットの中で、二つの鍵を擦り合わせた。一方は自宅の鍵で、もう一方はあいつの家の合鍵。いつもは自分の家のそれしか持ち歩いていないから、ポケットの重みに少しだけ違和感。でも、心地の良い違和感だ。
飯を済ませてくるのなら、自分も何か適当に食べておかねば。けれど、いまいち、何を食べたいか思いつかない。
とりあえず、コンビニに入って調達しようか。丁度緑のコンビニが見えてくる。まだ見えないけど、もう一、二分歩けば、名前負けならぬ名前勝ちしているコンビニも。後者の方が美味い惣菜多かった気がする。そっちで買うか。
通りかかっただけで開く自動ドアをスルーして、足を進めた。ひゅるりと吹き込んでくる風はまだ冷たい。もうすぐ三月だってのにな。雪も降らなきゃ、氷点下にもなりやしない。沢村や降谷は犬の如く快適と走り回ってたっけ。
何気なく浮かんだ後輩の面にそっと笑って、三色並べたコンビニに入った。
定番の幕の内に、ボリューム重視のカルビ弁当、視線をずらしていけば、麻婆丼や中華丼、親子丼まである。時間が時間だってのに、意外と揃ってんな。今日売れなかったのかよ。
ざっと流し見したところでピンときたものはなくて、仕方なくサンドイッチの段に目を移す。
「ぁー……」
だめだ、考えるのが面倒になってきた。
ふらりと踵を返し、向かったのはエナジードリンクが各種並ぶ冷蔵庫の前。
だがこの期に及んでえげつない量の糖分とカフェインを取る気はない。プレーンと言えば良いのか、ゼリー飲料のパックを一つ手に取った。それにホットココアの缶を加えてお会計。電子マネーって便利だよな、定期に挟めたそれで支払い、また北風荒ぶ帰路に戻った。
コートの襟に首を埋めて、ココアの缶を開ける。冷める前にと口をつければ、粉っぽくもほっとする甘さが広がった。
もう数分であいつの家に着いてしまう。
前もそうだったが、合鍵を鍵穴に刺す瞬間、きっと自分は緊張するのだろう。俺なんかが使って良いのか、やっぱり帰った方が良いんじゃないかって。
それでも、あいつに「おかえり」と言いたい自分もいて、葛藤も空しく上がり込んでしまう。
「誤算だよなあ」
声とともに吐き出た息が、ぼやりと白く濁った。
あいつから求められたとしても、こちらからは求めない。そのスタイルを貫きたかったのだが、どうにもあいつに甘えそうになる。恋人らしいやり取りを期待してしまう。
極端に言えば依存。
思ったより好かれている自信はあるが、それと同様に俺もあいつを好いているらしい。片思い拗らせたのが悪かったのか。これじゃあいつに別れを切り出されたとき、虚ろの空っぽになってしまいそう。そこまで女々しくも弱くもないと願いたい。
「はぁ」
大分近付いてきた高層マンションにため息を吹きつける。
今日はするのかな。でも帰ってきて早々はさすがにしないか。ただあいつは普通手を出すだろ、ってタイミングで手を出してこない。キスするのかと近付いてきたのに近付いただけで終わったり、同じベッドに入っても抱きしめるだけで眠りについたり。
もし、したいという目をしてきたら、いっそこちらから誘ってしまおうか。たぶんしたいと思うのだ、世間で思われているほどあいつの気は長くないし、決めたらどこまでも欲望に忠実だ。御幸の意図を汲み取る、ってことで、えろい顔したら誘ってみよう。
じゃあまず便所行ってなんとかしねえと。それから、帰ってくるまでは、軽く書類でもまとめていればいい。PC用眼鏡もタブレットもあるし、時間はいくらでも潰せる。
もう一度、冬の冷たい空気を吐き出して、マンションのエントランスに入った。
「くーらーもーちー」
呼ばれた、気がした。
耳を抜ける声色はさっぱりとした甘さで、頭に張り付くようなベタつきはない。だからこそ、心地いい。
「よーういーちくーん」
「ンぅ、」
また呼ばれた。かといって、意識を浮上させるには至らない。
ところで、いつの間に寝てしまったのだろう。御幸の家について、ウォッシュレットと格闘して、予定通り書類をまとめがてらタブレットPCを立ち上げた。何枚かの要件を取りまとめたのも覚えている。だがそのあとは?
体はまだ眠りについたままだが、意識だけはゆっくりと覚醒していく。今何時だ、というか、この声は。
未だに目覚めない体を煩わしく思いながら、遠ざかっていく足音を聞いた。遠ざかる、どうして。もしかしてまだ夢の中にいるのだろうか。なんということだ、あいつが帰ってくるその日に、帰ってくる夢を見るだなんて。
でも、そうだな、夢であっても、現実であっても、おかえりっては言ってやりたい。
ぼうっと思ったところで、ふわりと香りが近寄った。何の香りだろう。香水みたいなわざとらしいものじゃない。柔軟剤とか、シャンプーとか、そういう生活しているうちに染みついた匂い。
さらに温もりも加わって、浮遊感。
「ぐったりとしやがって、ってぇ……」
熱の方に寄りかかれば、PC眼鏡が米神に食い込んだ。そういえばつけていたんだっけ。忘れていた。このままじゃ歪んでしまう。だが、この浮遊感と、熱と、匂いに浸っていたい。もう少しだけ。
様子を窺おうと、わずかに瞼を持ち上げた。
「ぅ、……ぃゆき?」
「悪ぃ、起こしたか」
裸眼のときとは違う色合いで、その顔が視界に入る。
柔らかなカーブを描いた唇は相変わらずぽってりとしているし、俺を見る目はいつも通り甘い。だから依存しそうになるんだよばか。
唸りながらも、御幸にすり寄った。すると余計に眼鏡が食い込む。ああうざってえ、なんだこれ取っちまいたい。折角こいつがそばにいるのに、妙な不快感挟んでくんなよ。
ぎゅうっと眉間に皺を寄せると、ふわりと体が沈み込んだ。すぐに足先が布に覆われる。ベッドだろうか。こすれる布はシーツの滑らかさだし、きっとベッドであっている。
ゆるゆると瞼を持ち上げていけば、世界の色味が裸眼のそれに戻っていた。眼鏡、とってくれたのか。
「みゆき」
「眼鏡こっち置くな、あと寝てていいぜ」
「ぉかえぃ」
まだ重たい口を開けば、幼児みたいな拙い響きになってしまった。
わずかに目を見開いた御幸は、もにょもにょと口を動かした。何が言いたいんだよ。こちとら寝起きなんだ、仕方ないだろ。寝ぼけ眼を携えつつじぃっと見つめていれば、徐々にその顔は緩んで行った。ついでに目の奥に熱が光る。なんだよ、こういうシチュエーション好きなワケ?
「……タダイマ」
「っひゃはは、まぁぬけづらあ」
そのまま返してやる、なんて言ってきたけれど、俺はそこまで欲情してねえっての。自分で気付いてないのかよ。
というか、そうか、これを汲み取ってやらなくてはならないのか。じゃないとこいつは手を出してこない。下手をすれば男同士でセックスする事自体考えてない。溜まるモンは溜まるんだから、お前は何も考えないで襲い掛かってくりゃあいいのに。
ああだめだ、目が覚めたような気になっていたが、思った以上に頭は回っていない。くだらないことばかり考えてしまう。
「なあ」
首元が楽になり、ベルトのバックルに手を掛けられたところで、ごろりと横を向いた。お前は寝苦しくないようにって、してくれてるんだろう。でも、それ、俺のこと脱がしてるのと同じことだよな。
見たところ、こいつの欲は消えていない。でも無自覚だから、なんでこんなに見つめられるんだ、とか思ってんだろ。
一言、「しよう」とさえ言ってくれればいいのに。そしたら大人しく体を好きにさせてやるのに。
あーあー、もうこっちから誘っちまうか。予定通りすぎて笑えてくる。
「なんだよ、洋一君はおねむの時間でしょ~」
「すんの」
「そうだねえ、すやすやし……」
なにがすやすやだバーカ。それだけの熱を見せられて眠れるほど鈍くも鬼でもねえっての。
「エッ」
「シねーの、どっち」
ようやく体も動くようになってきた。無理やり抱き付いて押し倒すくらいならできるかな。いくらプロ野球選手とはいえ、長旅の疲れもあるだろうし。今日なら押さえつけれそうな気がする。広がった身長差と、高校時代に比べるとかなり痩せた体でどこまで健闘できるのか、試してみようか。
まあ、できることなら御幸自身からヤりたいと迫ってきて欲しいんだけど。なあ、悩んでないでがっついて来いよ。
「御幸、」
「な、に言ってんだよ」
「みぃーゆきー」
「っ、」
「かずや?」
「っやめろよ、」
名前で呼ばれるのはお気に召さなかったろうか。
「名前で呼ばれんの、嫌か」
「違う、それは、どっちかってーと、……どっちかって比べなくても、嬉しいけど、」
ああ、いいんだ。
この様子だと、名前で呼ばれると、理性とかその辺のモンが崩れそうで「やめろ」と言ったっぽいな。面倒くせえ男だな、御託は良いからヤりたいようにかかって来いよ。
準備は整っている。せいぜい難点をあげるとすれば、潤滑剤に当たるものをどうするかってくらい。後ろを弄りに弄ってきたとはいえ、処女に違いはないのだ。たった指二本程度の余裕では、血が出るかもしれない。でも処女膜ないなら裂けねえのかな、分かんねえ。
とりあえず、痛いのはどうにかなるだろ。多少痛くても、イイし。
ゆっくりとした動きで起き上がれば、しばらく悩んでいた御幸がぽつりと呟いた。
「イケるな」
「ん、すんの?」
「違う、待って待って待って違うんだ、こっちの話だか……、って勝手にベルト外すなよ!?」
「まだるっこしいな、ヤんのかヤんねーのかはっきりしろや」
バックルに手を掛け、片手でベルトを外す。これならもう簡単に脱ぎ捨てられるし、前だけ寛げてどうこうもできる。
徐々に消え去る眠気を如実に感じながら御幸を睨み付けた。下をやらせようってんじゃないんだ、イケると思ったんならさっさとヤれよ。あんまりこの問答が続くと俺ばっかシたいみたいじゃねえか。
――実質そうなんじゃねえの。過った考えに、強烈な羞恥が込み上げてきた。
「あー……その、倉持はさ、シたい?」
「……俺はお前に聞いてんだけど」
質問を質問で返すなってんだ。体中を駆け巡る羞恥で返事が思いつかないだけだろって? うるせえよ。
シたいか、だなんて。そもそも、シたくなかったらこんなこと言わない。お前だから突っ込まれてもいいって思うんだ。
後ろ解して洗浄まで済ませて、これでお前がシたくないとか言ったら俺の努力全部水の泡かよ。つーか、顔にヤりたいですって書いてあるぞ筋肉デブのクソ眼鏡。
「分かってるよ、俺は、そりゃあできるってのなら、シたいけど、シたいんだけど。その、ちょっと、時間くんない?」
「時間って」
「腹括る、時間?」
なんで突っ込むのに腹括るんだ。自然の摂理とほぼ同じことすればいいだけだろ、お前は。ただ突き刺す穴に生殖器としての機能がないってだけ。
待てよ、その穴の問題だろうか。肛門に突っ込むってのは、いくらなんでも分かっているはず。
「あぁ……、まあ、えっぐいとこ突っ込むしな」
「やっぱケツなんだ」
「他にどこがあんだよ」
口とか? 素マタとか? フェラチオはまだしもイマラチオは辛そうだよな。人並みの大きさであっても喉まで刺さりそうだし息できなくなりそうだし。しかも下手したら精液飲み下さなきゃだろ。そうでなくても顔射とか。
あーこいつ俺の顔でどこまで欲情できんだろ。明らかに男の骨格だし、目つき悪いし、むしろこれだけ熱を灯せるのがすげえな。
「……やっぱ、痛いんだよ、な」
全く関係のない方へ思考を走らせていれば、御幸が重い口を開いた。途端に、あれこれ入り乱れた頭が凪いでいく。
なんだ、そんなこと。そんなことを悩んでいたのか。
気負いやがって。気遣われたのを素直に喜べなくて、つい唇を尖らせてしまう。いくら野球以外に脳がないと言っても、最低限人を気遣うことはできたんだな。プロに入って、社会の過酷さを知って、それくらい覚えるか。
風が通り抜けるように、声が喉をすり抜けた。
「痛くても、イイけど」
――間髪おかず、御幸の顔が引き攣った。
「ごめん、俺Mっ気はねえから」
「……ハ?」
すぐに御幸は真面目な顔を取り繕う。けれど、その真顔を張り倒したい衝動が次々と込み上げてくる。
何言ってんだお前、それはつまりアレか、自分が女役やると思って今まで話してたってことか。馬鹿なの、阿呆なの。
体格的に自分が上だろうとか、男である以上自分が突っ込む側とか、そういう偏見持っとけよ。
わなわなと震えながら睨み付ければ、大真面目な顔をして御幸は畳みかけてきた。
「いや、お前が痛がるとこ見たい、ってんなら歯ァ食いしばるけど、痛いのはヤだ」
「ハァア?」
「はっはっは、うん俺痛いのはちょっと、」
「ハァアアア!?」
「わあ、完全に目覚めたって感じだな」
「そら目覚めるわ。ってそーじゃねえよ!」
「ぅぐぇっ……」
だめだもう耐えられない。
勢いよく胸倉を掴み上げれば、蛙が潰されたような声がした。
だが知ったこっちゃない。羞恥に取って代わった憤りに任せて、ぐらぐらと御幸の体を揺らした。それでも不満は解消されない。腹に一発くらい入れておくか。
鳩尾を睨むと、抵抗しようとしてか、両肩を掴まれた。
「っめろ、って!」
「おー、止めてやらあ。だからちょっと質問に答えろよォ?」
「ぐっ、絞まってる、てば、」
とはいえ、大人しく抵抗に応じる気にもなれない。シャツごと上に持ち上げ、ぎりぎりと首を絞め上げた。絞まってるだと、わざとに決まってる。
「ひとぉーつ、てめーの職を言ってみろ」
「や、野球選手?」
「そうですねえ。じゃあふたぁーつ、それなら一番の資本はなんだコラ」
「資本って、何だ、えっ体とか?」
「はいそのとぉおり。みぃーっつ、それなのに何で突っ込まれる方だと思った」
「ぅえ、だってお前に負担掛けたく、ねーし……」
それこそまさに、こっちの台詞。お前に負担をかけまいと必死になって、さらには被虐嗜好まで見出してしまったんだ。ここまで来て上下逆転させてたまるかこの野郎。
頭の中を巡る論理はめちゃくちゃで、ほとんど御幸への罵詈雑言しか出てこない。キャンプから帰ってきて早々に喧嘩をしたいわけじゃないんだ、それだけは言ってはならない。でもこのままではいずれ零してしまう。
いっそ塞いでしまうか。頭に血が上って、何が正常な思考なのかさっぱりだ。
「御幸、」
「なンッ!?」
丁度胸倉も掴んでいたし、目一杯の力で引き寄せた。狙いはその唇、ふにゅりなんて可愛らしい触れあいじゃなくていい。ガチリと歯がぶつかろうと、口を塞いでしまえればどうでもいいんだ。
喋りたいことを舌の上に乗せて、けれど言葉にはせず、口の中へねじ込んだ。歯列をなぞって上顎を擦りつけて。
おずおずと背中に腕を回されたのを機に舌を絡めれば、唇同様に厚みのあるそれがねっとりと嬲ってきた。
唾液が溢れる、漏れる、垂れる。
「んっ、」
「ぅん……、はあ」
「なあ、キス終えて一番がため息って」
「うーるせーえよ、っと!」
「ぉうわっ!?」
べとべとになった口元を手の甲で拭い、文句を言いたげな御幸の胸倉を改めて掴んだ。そして、ベッドの方へと引っ張りながら体重をかける。
呆然としてくれていて良かった、スポーツ選手として理想的な重たい体が、それほど苦労せずにベッドへ沈み込む。起き上がられたら次はない。即座にマウントを取った。
「ヘッ!?」
間抜けな声出しやがって。まだ自分が犯されると思ってるんだろうな。違うっての、お前はむしろ犯す側。
大きな瞳にうっすら涙を湛え、びくりと震える顔を見ると犯してやった方が良いのでは、という気にもなるが、それは別の機会ということで。
すっかり目の奥の熱が失せてしまったのは残念だが、立場を分からせればすぐに戻ってくるだろう。
御幸に跨ったまま、上体を倒した。必然的に、顔の距離が近付く。
だから、慄きながら目を瞑るなっての。やっぱり上になりたくなるだろ。浮かんできた欲を押し込めて、耳元に唇を寄せた。
熱を再び灯してくれますようにと願いを込めて。
これで萎えたままだったら死にたくなるから頼むぞ。そこまでお前のナニは鈍感じゃないと思いたい。
「――いいから、抱けよ」
二十四年生きてきて、これほど甘ったるい声を出せたのは初めてかもしれない。
はじけるように開いた瞳と目を合わせて、極力淫靡に笑ってやれば、瞬く間に肉欲が戻ってきた。紛うことなき雄の顔。
今の顔、ちょっとクるわ。後ろがぎゅうっと締まった。その顔を拝めるのなら、喜んで犯されてやるよ。どうせ溜まってんだろ。好きにしろ。
ちゅっと触れるだけのキスをすると、腰と後頭部に腕を回された。固定して、もう逃がさないと言っている様。何度かバードキスを繰り返し、目を合わせてから深く甘く口付けた。
予想の斜め上を行って、御幸の前戯はしつこかった。物臭で、突っ込めればいいという性格をしていると思っていたのだが、それは思い違いであったらしい。
すでに解してあると言っても聞かず、一本、二本、そして三本と増やされた指。そのままくぱっと口を広げられ昇天するところだった。それどころか、人並を越えた太さの怒張を先だけ捻じ込んでくるときた。一思いに貫いてくれればいいのに、直径のある雁首までしか突っ込まないとか生殺しだろ。お前にとっても、俺にとっても。
どうにか口説き落として奥をがつがつと突いてもらったのは、もう何時間前のことだろう。
同時に達するなんて夢を見ていたわけじゃないが、あれは酷かった。あいつの一発が俺の約三発。遅漏にもほどがある。三回目イくときなんか、本当に死ぬかと思った。出ない、苦しい、痛い。掘られる痛みよりずっと辛かった。それにまで興奮するようにはなりたくないものだ。
ついでにゴムを付け忘れたため見事に中出し。その量の多いこと、多いこと。注がれる時間も自分が出す一瞬より長くて気が狂いそうだった。いっそ注がれる熱が癖になりそう。衛生的にはつけた方が良いに決まっているが、あの快感欲しさにまた強請りたくなる。
誓って、俺から強請って堪るかとも思うけど。
「いっで」
起き上がると、体の節々が軋んだ。穴が痛いというより、その通り全身が痛いのだ。筋肉痛に近い。まさに筋肉痛なのかもしれない。正常位で大きく両脚を開いたし、最後なんか腰を浮かして上から捻じ込まれた。
何度思い返して散々だ。処女喪失がこんなハードで良いのかよ。AV女優も半泣きすんじゃねえの。
後ろだけじゃいけないと自慰をすれば、俺がしたいと肉刺だらけの硬い手のひらで擦られるし、その凸凹が気持ちよくて素直にイこうとすれば、ちょっと待てと根元を締め付けられるし。
射精制限とか馬鹿じゃねえの、それにだけは罵詈雑言を吐き付けさせてもらった。そのままあいつがイくまで我慢させられたら俺どうなってたんだ。考えるだけでぞっとする。
遮光カーテンのため外の明るさは分からないが、もう隣に御幸はいない。温もりもない。どこに行ったんだろう、まだ家にいるならいいが、出かける用事があったのなら。というか、それだったら起こしていけっての。
一抹の寂しさを抱いたところで、ようやく一糸纏わぬ姿であると気付いた。部屋を見渡すが、下着は見つからない。着ていたスーツは掛けられているものの、全裸で着るものじゃねえよなあ。
まだぼんやりとした思考で、くしゃりとシーツを掴んだ。散々乱れた割に、汚れていない。寝ている間に変えたのかもしれない。くっと引っ張れば、簡単にそれは剥げそう。
「――れでぃいか、って……、ぅわ」
自分の声に、驚いた。そこまで喘いだつもりはなかったが、酷く嗄れている。けほっと咳き込んで調子を整えられないか様子を見るが、どこか掠れは残ってしまう。
仕方がない、諦めよう。ため息を吐いて、シーツを頭からかぶった。ぐるりと巻きつけて、そっと足を床に下ろす。立ち上がれるだろうか。腰は抜けていないから大丈夫だと思いたい。
力を入れて立てば、一瞬よろめくも、歩けないほどじゃない。良かった。
絨毯を経てフローリングに降り立つと、ひやりと冷気が体を上ってくる。やだやだ、スリッパとかねえのかな。履いてるとこ見たことないし、たぶんないんだろうなあ。
そんなことを思いつつ、寝室のドアノブに手を掛けた。
「ぁ、」
がちゃりとドアを開ければ、散々しがみ付いた背中が視界に入った。カウンターキッチンの中、こちらに背を向ける形。そういえば、あいつ、いつもコーヒー飲んでたな。耳を澄ませばこぽこぽとコーヒーメーカーの音がする。
そうか、まだいたのか。
胸に安堵を広げながら、ひたひたと近付いていく。折角の初夜明けだってのに、早々に起きていきやがって。安心すると、ぽつりぽつりと文句も浮かんでくる。近付いてんの気付いてんだろ、振り向けよ。
待てよ、わざと振り向かないのだったら。あんだけヤっておいて、我に返ったら引いたとか。男とセックスしたなんて、一生の汚点だとか。近付くたび強張っていく背中を見ていると、浮かんだ文句を言う気は失せてしまう。それどころか罪悪感まで生まれてきた。
どうしよう。そばまで来ておいて、ちょっと悩む。でも、本当に嫌だったら、御幸ならはっきり言うよな。そういうお前を信じるぜ。
気付かれないように唾を飲み込んで、こつり、背中に額をぶつけた。
「くっ、倉持さん?」
「ん、まだ、いて……、よかった」
それでも、目を合わせるのは怖い。幻滅した、軽蔑した、そんな目を向けられたら立ち直れない。弱っちくなったなあ、何言われたって、どう思われたって平気だったあの頃が懐かしい。
布が歪む感覚に、御幸が首だけ振り向いたのが分かった。なんて言う、なんと言ってくる。視界に捉えるのは拒んだ癖に、耳だけは澄ましている。
「……今日は俺、家にいるよ」
柔らかくて、和やかな声。ふっと胸の不安が溶けていく。
「なんなら、こき使って良いし」
んなことしない。家にいるってのなら、一緒にいてくれさえすればそれで充分。知らないだろうけど、俺今日有給取ってあるんだぜ。帰り際にもぎ取ってきたから、同僚には恨まれてるかもしれねえや。
「仰せのままに、働かせてイタダキマス」
働かなくていいんだって。そっと瞼を持ち上げれば、シーツに埋まりかけた自分の足先と、裾の長いスウェットを踏みつけている御幸の踵が見えた。やっぱりスリッパは履いていない。買うよう提案してみるかな。
――ふと、脚を伝う感覚。
「ァ……」
「ど、うした」
なんでお前まで緊張した声してんの。
さておき、垂れてきたそれに、つい内またになってしまう。
それ以上漏れることがないよう、ぎゅうっと後ろを締めた。
「お前、昨日さ」
「うん」
「ゴムしてねえだろ」
自明のことを聞いてしまった。それを言いたいんじゃないんだけどな。
そっと顔をあげれば、シーツが頭から滑り落ちた。フードをとったときみたいに、襟もとでひだを作る。いつの間にか御幸は顔を正面に戻していた。こっち、見ろよ。
「たいっへん申し訳ありませんでした」
「ヒャハッ、謝んならこっち向いて言えや」
深刻そうな声を出すものだから、ついからかってしまう。一瞬強張った体は、改めて、ゆっくりこちらを向いた。
あーあー、なんつー顔してんだよ。情けなく目と眉は垂れているくせに、しっとりと熱を持っている。朝っぱらからなに盛ってんだ。
ぽってりとした唇を見ているだけで、またしてもいいかななんて。そう思っている自分も重症なんだろうけどよ。
「ごめん、ヤりすぎた……」
「反省しろよ」
「うん……」
ヤりすぎた、という自覚はあるらしい。ということは、贔屓目なしに、俺に欲情して本能のままがっついたってことか。饒舌に責めてきたもんだから、いつもああなのかと思ったが。
もう少しだけ、からかっても、怒られないだろうか。気付かれない程度にほくそ笑んで、一歩御幸から引いた。それから下肢を覆うシーツをたくし上げる。あたかもスカートの裾を持ち上げるように。
「ほれ、おめーの悪行、よぉーく目に焼き付けとけ」
「うん、……って、へ?」
また間抜け面。
呆けた顔をする御幸の顔をじぃっと見つつ、わずかに後ろを緩めた。あぁ、やばい、これだけでも結構イイかも。このまま放置したら腹下すから、健康には良くないんだろうな。
漏れ出したソレが、内腿を這い、伝い落ちてくる。よく見とけよ、お前が俺の中に吐き出した精液の末路を。数億の種を無駄打ちしたんだぜ、お前。
最初は意味が解らないと頬を染めるばかりだったが、曝け出した脚を見ているうちに、気付いたらしい。
膝裏が濡れたところで、ヒュッと、御幸の喉が鳴る。
「ぅわぁえぁおぉお!?」
「おおっ!?」
突然の絶叫。
かと思えば、がっしりと腰を捉えられる。何事かと思考が追いつかないうちに体が浮き上がった。腰を起点に俵担ぎ、おお、プロ野球選手の筋力舐めてたわ。まして捕手だもんな、これくらいできるか。
ぱたぱたと脚を伝い落ちた精液が床に散った。後で掃除しねえとなんねえな。ところで、俺これからどこに連れていかれるんだ。
落ちるのは嫌だと御幸の背を掴むと、どたばたと大きな足音を立てて風呂場まで連れていかれた。抱き上げたときの乱雑さとは打って変わって、バスタブの縁に下ろすのはとても丁寧。されるがままに座れば、今度はしがみ付くように両腕を掴まれた。
「どっ、どうしたらいいんだ!?」
「ハ」
「だ、えっ、俺中出しして、そのままじゃだめなんだろ……」
「ああ、まあうん。掻き出した方いいんだろーな」
「かっ、どうやって、」
「指とか? ヤったことねーからわかんねえよ。なんならシてくれんの?」
「ぅえ!?」
一層情けのない面になったところで、額をぱちんと弾いてやった。
必死なその顔が、愛おしくって仕方がない。